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お前の番だ! 77 [お前の番だ! 3 創作]

「ところでお前さんは持ち物は多い方かい?」
 良平はそう訊きながら畳に寝転んで、肘を立ててそれを枕にするのでありました。
「いいえ、極端に少ない方で」
「あんまり一杯所帯道具を持ちこんで来るなよ。この六畳の内弟子部屋に二組布団を敷くんだから、その辺を考えて整理箪笥とかの嵩張るような物は処分してから来いよ」
「判りました。衣類と少々の本くらいにします」
「衣装持ちの方かい?」
「いやあ、下着や靴下の他はシーパンが二本にポロシャツが三枚、それに冬のコートくらいです。ああそれと、三つ揃いのスーツとワイシャツが夫々一着にネクタイが一本」
「結構々々。それ以上増やすなよ」
「押忍。承りました」
 万太郎はそう云って、胡坐の両膝に肘を張った手をついて頷きとお辞儀の中間くらいに頭を下げるのでありました。
「ああそうだ、良い物がある」
 良平は立ち上がると、押入れの中から菓子折りを持ちだすのでありました。「信州の故郷から送ってきた菓子だ。ちょっとつまめ」
「ほう、栗鹿子ですか」
 朝食を抜いていたので食い物を前に万太郎の腹が不謹慎にぐうと鳴るのでありました。
「ああ。鄙びた物だが案外味わいのある菓子だぞ」
「頂きます」
「おお、頂け。ところでお前さん、朝飯は食ったのかい?」
「いや、朝早かったので」
「ああそうかい。それは気の毒な事だな」
 良平は今度は押入れの中から二つのマグカップとインスタントコーヒーの瓶を取り出すのでありました。なかなか篤く持て成してくれるようでありあす。
「ま、菓子じゃ腹の足しにはならんが、あるだけ食って構わんぞ。一緒にコーヒーでも飲めば昼まで少しは空き腹を誤魔化せるだろう」
 良平は一緒に押入れから小さなポットを取り出して「ちょっくらちょいと母屋の方からお湯を貰って来る」と云って立ち上がると部屋を出て行くのでありました。
 待つこと暫し、良平はポットの他に円い朱盆を手に持って帰って来るのでありました。
「お前さんが朝飯抜きらしいと云ったら、あゆみさんがこれを作ってくれた」
 朱盆には皿に海苔を巻いた大ぶりの握り飯が一つと、その他に二つの湯気の上がっている日本茶の湯呑が載っているのでありました。
「これをいただいて良いのですか?」
「ああ。稽古前だからあんまり腹一杯になってもいかんのでこれだけ、と云う事だ」
「あゆみさんは、案外おやさしいですね」
「うん。稽古着を着て道場に立つと途端に厳しい姉弟子に変貌するけどな」
(続)
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