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お前の番だ! 55 [お前の番だ! 2 創作]

「ああそうなのですか」
 万太郎は相槌を打つのでありました。歳はそう違わないだろうと思っていたのでありますが、同い歳でしかも同じ大学四年生、・・・いやいや、彼はもう大学を止めていると云うのだから、この前まで大学四年生だった、と云う事になりますか。
「彼奴にも卒業を待ってからここへ来れば良いと云ったのだが、どういう了見なのだか即座に道場に転がりこんで来たんですよ」
「随分潔い方のようですね」
「彼奴は何と云うのか、確かに妙に一本気なところがあってね。まあ、鳥枝さんに云わせれば、おっちょこちょいと云う事になるのですがね」
 是路総士は目を細めるのでありました。「ああいや、だからと云って君にもそうしろと暗に云っているのでは毛頭ありませんよ。誤解のないように。折角大学にまで進んだんだから、無難に卒業するのが真っ当と云うものです」
「そう云っていただくと有難いです」
 万太郎はやや恐縮の態でお辞儀するのでありました。
「卒業までは都合の良い時間で来てもらえば結構です」
「稽古にはなるべく出るようにします。先程面能美さんからいただいた案内に依れば、午前十時からと午後三時から、それに夜七時から稽古があるようですが、それは総て出る事が出来ると思います。それに大学に行かないで良い日はずうっと道場にいて、内弟子の仕事をあれこれ覚えるようにしたいと思います」
「ああ、それは一般門下生の稽古時間ですね。その合間に内弟子と準内弟子の稽古が挟まりますし、夜稽古の後に内弟子だけの剣術の稽古もあります。まあ、総て出ると云うと学校に行く暇がなくなりますから、最初の一か月は常勝流の初心者でもありますし、一般門下生稽古に出る事を主にすればよろしいですかな。そこで受け身とか基本的な体の動かし方等を習得すると云うつもりでね。内弟子稽古は或る程度常勝流の技の概要を理解してからでないと、なかなかついていけないかも知れませんからね」
「卒業試験中は時間が儘ならない事もあるでしょうが、それでも早く内弟子としての仕事も覚えたいですし、可能な限り道場にいるようにしたいと思います」
「それは結構な心がけですが、最初から無理をして息切れしないようにね」
「はい。その辺は要領良くやります」
「取り敢えず学校優先で大丈夫です。遠慮は何も要りません」
「有難うございます」
 万太郎はもう一度お辞儀するのでありました。
「まあ、委細は鳥枝さんと打ちあわせしてください。私の方から鳥枝さんに卒業までは学校優先である事を云い添えておきますから」
 是路総士はそう理解のあるところを示してくれるのでありました。しかしあの鳥枝範士と打ちあわせしたら、そんな大学優先なんぞと甘っちょろい事をほざいていないで、死に物狂いで無理をせんかと一喝されそうな気が万太郎はするのでありました。
(続)
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