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お前の番だ! 47 [お前の番だ! 2 創作]

「この者が今度内弟子に入る男です」
 鳥枝範士が後ろに控えた万太郎を是路総士に紹介するのでありました。
「ああそうですか。大いに励んでください」
 是路総士は万太郎に向かってそう声をかけるのでありました。
「折野万太郎と申します。向後、ご指導をよろしくお願いいたします」
 万太郎は座礼しながら畏まった口調で云うのでありました。そう云いながらも、鳥枝範士が勝手に万太郎が内弟子に入ると端から決めてかかっていて、そのペースに押し切られたような格好でこうして今、是路総士に向かって自分が低頭しているようなわけで、実のところ万太郎としては未だ現実感と云うものが希薄な儘なのでありました。
「是路と申します。こちらこそよろしく。ところでご親族の許可は取ってあるのですか?」
 是路総士が訊くのでありました。
「いや、それは未だ。・・・」
 万太郎は顔をやや起こして鳥枝範士の後頭部をたじろぎの目で見るのでありました。
「面能美の場合と同様、一応鳥枝建設が嘱託社員と云う身分で採用したと云う体裁にいたしますので、その点を後日、当人から親御さんの方へははっきり連絡させます」
 これは鳥枝範士の言葉でありました。「その折、ワシの方から、仕事の実態としては常勝流の専門稽古生になる事だと云う少し詳しい内容の手紙を出しておきます」
「ああそうですか。もし必要なら私も手紙を添えましょう」
「まあ、万が一内弟子稼業につく事をご両親に反対されるとしても、もう成人した健児でありますから、本人の強い覚悟があれば特段の問題は出来しないでありましょう」
「ご両親は、君が常勝流の内弟子になる事に反対されると思いますか?」
 是路総士が鳥枝範士の後ろで正坐している万太郎に穏やかに訊くのでありました。
「僕は男女取り混ぜて四人兄弟の末っ子の三男でありますし、上の兄達や姉は郷里の熊本で、もう就職していますから兄弟の中で僕が少しへんてこりんな仕事、ああいや、その、あまり一般的ではない仕事に就いたとしても、両親は意外にあっさり受容すると思います」
「ああそうですか」
 是路総士が笑みを湛えて頷くのでありました。
「それにウチの父親は、自分はやらないくせに武道好きな性質で、子供には大いに剣道を奨励しておりましたから、寧ろ喜ぶかも知れません」
「ああ、この男は高校生の時まで捨身流の剣術道場に通っていたと云う事です」
 鳥枝範士が横から云い添えるのでありました。
「ほう、勇猛果敢な打ちこみで鳴らす、あの熊本の捨身流ですか?」
「いやまあ、主に竹刀剣道をやらせられました。捨身流の形を習い出したのは高校生になってからですから、捨身流をやっていた、と云うのは少し大袈裟な云い草かと思います」
 万太郎は恐懼しながら首を横にふるのでありました。
「さて、では私はこの後一般稽古がありますから、申しわけありませんが総士先生の方から、内弟子の仕来たりとか諸注意とかをこの男にご教誨してやってください」
(続)
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