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お前の番だ! 27 [お前の番だ! 1 創作]

 万太郎は道場の下座隅に案内されるのでありました。
「どうぞそこへお座りください。今案内の紙と申込書を持って参ります。未だ稽古開始までは三十分程ありますので、暫くお待ちいただく事になります」
 良平はそう云い置いてから玄関前の部屋に取って返して、手に二枚の紙を持ってすぐにまた戻って来るのでありました。
「どうぞお座りください」
 良平はまた万太郎に着座を促すのでありました。
「では、恐れ入ります」
 万太郎がその場に正坐すると、良平もその後すぐに横に正坐するのでありました。
「足は崩されて結構ですよ」
「ああいえ、この儘で大丈夫です」
「何か武道をやられているのですか?」
 良平が愛想の心算か目元に笑いを浮かべて訊くのでありました。
「いえ、今は別に何も」
「今は、とおっしゃるからには、前に何かおやりになっていたのですか?」
「ええまあ、高校生の頃に剣道を少々」
「ああそうですか。道理で正坐の仕方がなかなか様になっている筈だ」
 良平は納得したように頷くのでありました。「我が常勝流にも剣術の稽古もありますが、一般の門下生の方は体術の方の稽古が主になります」
「剣術はお教えいただけないのですか?」
「いやまあ、そんな事もありませんが、一般門下生の方に関しては、剣術は希望者のみにお教えすると云う事になります」
「ああそうですか。希望すれば教えていただけるのですか?」
「そうですね。週に一回稽古日が決まっていますので、その日に稽古が可能ならば」
「ああ成程、そう云うシステムなのですね」
「剣術の方を主に稽古したいと云うご希望があるのでしょうか?」
「いやまあ、そんな事もありません。常勝流は体術が主だとお伺いしておりますので」
「おや、常勝流の事を多少ご存知で?」
 稽古開始まで未だ三十分もあると云うので、どうやら良平はその間の万太郎の手持無沙汰を慰めると云う親切な心根からか、話し相手をしてくれる心算のようであります。
「ええ、ほんの少し古武道関係の本で得た情報程度ですが」
「剣道をやられていたと云う事ですから、古流の剣術とかにお詳しいのでしょうか?」
「いや別に詳しいわけではありません。偶々知っていただけです」
 万太郎はつれない云い草にならないように気をつけながらそう返すのでありました。
「ああそうですか」
 良平は頷きながら目を自分の膝元に落とすのでありました。「ああ、これをお渡ししておきます。当道場の入門案内と入門申込用紙です」
(続)
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