SSブログ

もうじやのたわむれ 352 [もうじやのたわむれ 12 創作]

 父老の手下と思しき若い衆の番鬼が二鬼、片方の手に松明、もう片方の手にはイボイボのついた重そうな金棒を持って、その金棒を肩に担いで、洞窟入り口の両脇に佇立しているのでありました。この二鬼は屈強な体躯をしていて、上半身裸で、腰に粗末な布を巻きつけただけのいで立ちで、縮れた頭髪に厳めしい顔をしているのでありましたが、これで頭髪の上に角があって、口の端から牙でも見えていたら、これは如何にも娑婆で広くイメージされているところの、鬼の姿そのものでありましょうか。まあ、特に今、怒っているわけでもないし興奮してもいないのでしょうから、頭の角は見えてはおりませんでしたが。拙生は如何にも娑婆でお馴染の典型的な鬼が現れたので、少し嬉しくなるのでありました。
「この洞窟に許可なく入る事は、何鬼であろうとまかりならんぞ」
 二鬼の片割れが松明を翳しながら、威嚇の声を上げるのでありました。
「洞窟の番をご苦労さん」
 亀屋技官が気後れした風もなく、その鬼に笑って見せるのでありました。
「随分親しげな声を出しおって、何じゃな、お前さんは?」
 番鬼は威嚇のためか、縮れ毛の上に二本の角を少し覗かせるのでありました。拙生は何となくワクワクするのでありました。
「父老から洞窟の使用許可を貰って来たんだがね」
 亀屋技官は父老から渡された、昔の中国の虎符に似た割符を上着の内ポケットから取り出して、徐に番鬼に差し出すのでありました。番鬼は一度怖い顔をして亀屋技官を見据えてから、肩の金棒を相方の鬼に渡してその割符を億劫そうな仕草で受け取ると、腰に巻いた粗末な布に手を突っこんで、自分の所持する片割れの割符を取り出すのでありました。妙なところから取り出すものだなと、拙生はやや眉を寄せて秘かに思うのでありました。
「おう、ピッタリじゃわい」
 番鬼は亀屋技官の顔をもう一度見るのでありましたが、その顔からは先程までの厳めし気な気配はすっかり消え失せて、寧ろ愛想するような卑屈な色さえ浮かんでいるのでありました。頭の上に少し覗かせた角も、すっかり引っこめて仕舞っているのであります。
「確認が出来たかい?」
 松明に照らされた亀屋技官の顔に、やや傲慢そうな影が宿るのでありました。
「へえ。父老の持っている割符に間違いありませんわい。いったい何方さんで?」
「娑婆交流協会の亀屋と云う鬼だよ」
「ああ、娑婆交流協会の亀屋さん。父老から前に聞いた事のあるお名前ですわいの」
「この前、ここの番鬼をしていた鬼は、今日はどうしたのかね?」
「へえ、前のヤツは配置転換になって、今は村の連中から年貢を搾り取る部署に移りましたわい。迂闊にもお顔を存じ上げなんだとは云え、無調法をして仕舞いましたわいのう」
 番鬼は律義な一礼をしながら、しかつめ顔で亀屋技官に謝るのでありました。察するところ、亀屋技官は父老とは相当古いつきあいなのでありましょう。それも、父老の持つ割符を直接預かったり、父老から、亀の旦那、と呼ばれていたり、番鬼が名前を聞いてこうも遜るのでありますから、同格か寧ろ客分扱いと云った処遇を得ているのかも知れません。
(続)
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 7

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。