SSブログ

もうじやのたわむれ 349 [もうじやのたわむれ 12 創作]

「それと、これは洞窟使用料だ」
 亀屋技官はまたポケットから茶封筒を取り出すのでありました。父老はその茶封筒を受け取ると封を手で乱暴に切って、中の紙幣を取り出すのでありました。
「なんじゃ、正規の料金しか入っておらんじゃないか」
「そりゃそうだ。娑婆交流協会としては立場上、正規の料金しか払えんからねえ」
「少しは色をつけてもらわんと、あまりに愛想がなかろうよ」
 父老は不満げな顔を亀屋技官に向けるのでありました。
「その代りに、上玉の石ころを持ってきたじゃないか。ここはあんまり欲を掻かないで、すんなりその封筒を懐に入れて、ぽんと一つ手を打ってくれよ」
 亀屋技官は手刀を顔の前に翳して、浅く懇願の一礼をするのでありました。
「ちぇっ、亀の旦那にお辞儀されちゃあ、これ以上のしみったれは云えねえわな」
 父老は顰め面をするのでありました。「その代り、今度ウチの若い衆の息子が街に出て、娑婆交流協会の就職試験を受ける事になっとるんじゃが、その面倒はきっちり見てくれよ。なんせこの息子ときたら、頭の方はさっぱりのようじゃから、コネを使うしかないんでな」
「判った。そんな事はお安いご用だ。後でそいつの名前を教えておいてくれ」
 これで何とか洞窟使用に関しては、父老と話しがついたと云うことでありましょう。父老は茶封筒を懐に仕舞うと、代わりに木製の彫物を同じ懐から取り出すのでありました。その色と云い形と云い大きさと云い昔の中国の、皇帝が将軍に兵権を委ねる時に、その証として渡す虎符に似ている代物であります。察するところどうやらこれは、洞窟使用を保証する割符の片割れなのでありましょう。何とも古風な仕来たりと云うべきであります。
 割符を受け取った後、亀屋技官は父老と何やら個人的な、いや違った、個鬼的な話しがあると云うので、拙生と閻魔庁派遣の三鬼は父老の家から出されるのでありました。我々一亡者と三鬼は車に戻って、その中で待機するのでありました。
「部外の我々の目があると云うのに、その面前であの父老は亀屋技官に平気で、洞窟使用料に色をつけろとか、娑婆交流協会に就職しようとする手下の鬼の子供の就職斡旋を依頼したりとか、何やら色々と胡散臭い要求なんかをしていましたし、亀屋技官もそれに対して、我々の目がないかのようにごく普通に応対していましたが、準娑婆省生粋の鬼連中は人目を憚るなんと云う心根は、呆れた事に全く持ちあわせていないのでしょうかね?」
 発羅津玄喜氏が拙生の左横で腕組みしながら云うのでありました。
「ま、そう云う事だな。そう云う要求に、別に羞恥とか後ろめたさなんかを感じないのだろうな。品性がそこまで錬れていない連中なんだろうな」
 補佐官筆頭が前の助手席から、身を捻って後ろを向きながら応えるのでありました。
「品性の問題なのでしょうかね?」
「まあ、こそこそと、そう云った要求をすれば、それで品性が錬れている事になるわけでもないけれど、ま、人目を憚るべき時は憚る方が、憚ると云う気持ちがあるだけまともとも云えるだろう。或いは、品性以前の単なるマナーの問題かも知れないがね」
「単なるマナーの問題なのですかね?」
(続)
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 7

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。