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もうじやのたわむれ 345 [もうじやのたわむれ 12 創作]

 そうこうしている内に部屋に亀屋技官が現れて、準備万端整ったのでこれから黄泉比良坂へ向かいたいのだがと、我々一亡者と三鬼に出発を促すのでありました。我々は亀屋技官の尻について部屋を出ると、一階の玄関の方に向かうのでありました。
 玄関には白い大型のバンが横づけされているのでありました。大岩会長や林家彦六氏、それに大酒呑太郎氏の顔があるのは、我々を見送るためでありましょう。
「さあ、お乗りください」
 亀屋技官は我々にそう云って、自分が最初に運転席に乗りこむのでありました。
「では色々お世話をおかけしました」
 補佐官筆頭が大岩会長にお辞儀するのでありました。
「今から出かけて用事を済まして、補佐官さんがこちらにお戻りになるのは夜になりそうですから、前の時と同じに、補佐官さんは私共の用意した宿舎の方にお帰りください。今回も親睦のために、近くの居酒屋にささやかな宴席を設けておりますから」
 大岩会長が補佐官筆頭と握手しながら云うのでありました。「そこの護衛官さん達もこちらの宿舎の方にお泊りになって、宴会にご出席になっても宜しいのですが?」
「いや、私共はあくまで亡者様の護衛担当としてこちらに参ったので、準娑婆省のお歴々との交流の許可を上から貰っていません。ですから先回の時と同様、奪衣婆港の方の閻魔庁の宿舎で今日は泊まります。亀屋技官にはお手間をおかけするようですが、帰りはそちらの方に車を回して貰って、我々護衛二鬼をそこで下ろしていただけたら有難いですな」
 逸茂厳記氏が大岩会長に掌を見せて、申し出を断るのでありました。
「奪衣婆港の方にお送りするのは、お安いご用です」
 亀屋技官が運転席の窓に片肘をついて了解するのでありました。
「まあ良いじゃありませんか、そんな律義らしい事を云って遠慮なさらなくとも」
 大岩会長が尚も逸茂厳記氏に誘いの言葉を投げるのでありました。
「いや、閻魔庁の規則なので、有難いお誘いではありますが固く辞退いたします」
 逸茂厳記氏は大岩会長の前に翳した掌を何度か横にふるのでありました。
「私も、今日は奪衣婆港の閻魔庁の宿舎の方に泊まります」
 補佐官筆頭が横から云うのでありました。
「あらま、補佐官さんは私たちと交流しても何も問題はないのでしょう?」
「まあそうですが、しかし今回はこの護衛官達と一緒に、奪衣婆港の閻魔庁宿舎の方に泊まります。愛想のない事で慎に申しわけないですが」
 補佐官筆頭がそう云うのは、また前の時のように酒の接待を受けた後、大酒呑太郎氏に無粋なちょっかいでからかわれる事を、強く警戒しているためでありましょう。
「折角楽しみにしていましたのに」
 大岩会長が大いに残念がるのでありました。
「いや、今回は、私も奪衣婆港の方に泊まるつもりで始めからおりましたので」
 補佐官筆頭は断固とした口調でそう云い張るのでありました。大酒呑太郎氏は薄ら笑いを口の端に浮かべて、そんな補佐官筆頭を見ているのでありました。
(続)
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