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もうじやのたわむれ 340 [もうじやのたわむれ 12 創作]

「奪衣婆港のあの防衛隊の応援とかは仰げないのでしょうかね?」
「いやそれは、港湾施設及び港湾付帯施設は閻魔庁の永久租借地にありますから、その敷地内か、限られた周辺なら、防衛隊も活発に活動する事も出来ます。そこは治外法権ですから地獄省の警察権にしろ何にしろ、あらゆる権限も誰憚る事なく行使可能ですが、それ以外の準娑婆省の省土となると、矢張り省際条約上、或いは地位協定上我々の権限も大幅に制約されて仕舞いますし、原則的には準娑婆省の法令や慣習を尊重する事となります」
「ああ成程、それはそうでしょうね。準娑婆省も歴とした独立国家、いや省家ですからね」
「幾ら準娑婆省の殆どの連中がルール無視の無頼漢であっても、その辺のけじめはちゃんとしておかないと、我々も連中と同じレベルの鬼となって仕舞いますからね」
 拙生と補佐官筆頭がそう云う話しをしていると、発羅津玄喜氏が下で買ってきた飲み物を腹の前に纏めて抱えて、開けにくそうにドアを開いて部屋に戻って来るのでありました。それからその発羅津玄喜氏の後ろから、どうしたわけか大酒呑太郎氏が一緒に部屋に入ってくるのでありました。これはまた、何のための再来でありましょうや。
「何かお忘れ物ですか?」
 補佐官筆頭が怪訝な顔をして、大酒呑太郎氏に無愛想に声をかけるのでありました。
「いや別にそう云うわけではないのですがね。ま、こんな折じゃないと補佐官さんに滅多にお目にかかれないので、その後俳句に新境地を開かれたかどうかとか、そんなような話しでもしようかと思いましてね、こうして戻ってきたのですな」
 大酒呑太郎氏はそう云いながら、先程と同じ席にゆっくり腰を下ろすのでありました。補佐官筆頭は一瞬、露骨に嫌な顔をするのでありましたが、しかし無下に出て行けとも云えず、口をへの字に曲げるだけでありました。
「仕事時間中にそう云う、私的な趣味の話をするのは差し控えたいですね」
 補佐官筆頭の愛想の欠片もない云い草であります。これは前回の出張の折の、大酒呑太郎氏の自分に対する鬼の悪いちょっかいを、相当に根に持っているようであります。
「何か、あんまり私と話しをしたくないような気配ですなあ」
 大酒呑太郎氏は補佐官筆頭の意外な不機嫌を察して、そう訊くのでありました。「さっき訊こうと思ったのですが、前の時に私が何か、不興を買うような事を仕出かしましたかな?」
 補佐官筆頭はこの大酒呑太郎氏のしれっとした云い様に、眉根を寄せるのでありました。
「それは大酒さんが一番ご承知の筈でしょう?」
「はて、何でしょうかな、全く思い当りませんなあ」
「そんなに落ち着き払っておトボケになっては困ります。長年準娑婆省の空気に馴染んで仕舞うと、そうも鬼格が歪んで仕舞われるのでしょうかね」
「ええと、その、鬼格、と云うのは、娑婆で云うところの、人格、ですね?」
 これは拙生が横から遠慮がちに口を挟む言葉でありました。
「正解です」
 補佐官筆頭は眉根を寄せた顔の儘、億劫そうにピースサインをするのでありました。拙生もまた、こんな時に無神経に余計な事を態々訊かなければ良いものを。
(続)
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