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もうじやのたわむれ 339 [もうじやのたわむれ 12 創作]

「そうね。じゃあ頼もうかね。気が利かないのか、それとも端からその気がないのか知らないが、お茶も出ないからなあ、ここでは」
 補佐官筆頭が、先程拙生が思ったのと同じ事を云うのでありました。
「じゃあ、一っ走り行ってきます。皆さんコーヒーで良いですか?」
「私は温かい緑茶か何かを頼むよ」
 補佐官筆頭が云うのでありました。
「俺はコーヒーの微糖のヤツ。あるのなら温かいのを」
 逸茂厳記氏が後に続くのでありました。
「私はブラックの冷たいのを」
 これは拙生の注文であります。どうでも良い事でありますが、発羅津玄喜が拙生と同じ冷たいブラックコーヒーであれば、三途の川の豪華客船の客室で飲んだ夫々の飲み物と全く同じでありますか。何とも芸のないチョイスと云うのか何と云うのか。
「ところであの亀屋技官と云う方は生粋の準娑婆省っ子の鬼と云う事ですが、前に補佐官さんが出張された時、矢張りさっきの面子でお話しあいをされて、その折は確か、鶴屋南北と云うお名前で前に娑婆にいらした方だ、なんと云う風の事をお聞きしたと思うのですが、そうなると、鬼ではなくて極楽省か地獄省に居た霊である事になるのではないですか?」
 拙生は隣の席で持参したブリーフケースから、何かの書類の束を取り出そうとしている補佐官筆頭に訊くのでありました。
「そうです。あの時はそう云う風に自己紹介されました。ですから私は今の今まで大岩会長や林家彦六さんと同じ、極楽省か地獄省からやって来た霊だとばかり思っていたのですが、どうやらそうじゃないような話しの按配で、些か驚いておるところです」
「では前の時、亀屋技官は補佐官さんに嘘を云ったと云う事でしょうかね?」
「ま、そういなりますね。私が思いますに、準娑婆省では生粋の準娑婆省っ子より極楽省や地獄省からやって来た霊、或いは鬼の方がステータスが上だし、傍も大いに持て囃すものだから、そういう風に普段から詐称していたのでしょう。しかし前回、余りにあっけらかんと、大岩会長や彦六さんや大酒さんの目の前も憚らず詐称した事を、後日そのお三方に咎められたか何かして、当人が、いや違った、当鬼が恥じ入ってかどうかは判りませんが、兎も角、今回は遠慮してそう云う無様な見栄は張らなかったのでしょうね。準娑婆省の連中は、そんなすぐにバレる芸のない、迂闊過ぎる嘘をついてけろりとしていますし、それがバレたからと云って、特に羞恥するような心根も備えていませんからね。厚顔無恥と云うのか何と云うのか。まあ、そう云う程度の事なのだろうと私は察しましたけどね」
「ああそうですか。しかしそんな方が今回の私の娑婆への逆戻りを差配するとなると、どうも不安な心持がしてきますなあ」
「お察しします。しかし私と逸茂、発羅津の三鬼で閻魔庁の威信を前面に押し出して、屹度厳格な対処をさせますのでご安心を。準娑婆省の連中に不埒な真似はいたさせません」
 補佐官筆頭が胸を叩いて見せるのでありました。少し遅れて逸茂厳記氏も力強く己の胸を叩くのでありましたが、少し強く叩きすぎたのか、その後ちょっと咽るのでありました。
(続)
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