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もうじやのたわむれ 333 [もうじやのたわむれ 12 創作]

「そうです。実存基幹根も幽体変換酵素も物質には違いありません」
「そうなら、生命科学の進展と伴に、何時か必ず発見されて良いと思うのですがね」
「しかし先ず発見されることはないでしょう。何故なら、ほら、人間は自分の体臭とか口臭は自分では決して気づかないと云うではありませんか。それと同じようなものですかな」
「実存基幹根と幽体変換酵素は体臭とか口臭と同じなわけだ」
「まあ、気づくか、気づかないかという点に於いては、例えて云えば、自分の体臭、及び自分の口臭と同じようなものだと云う事ですな」
 大酒呑太郎氏は人を、いや、亡者を食ったような笑みを浮かべるのでありました。
「まあいいや」
 拙生はここで咳払いを一つするのでありました。「向こうの世の人類が将来に於いて気づくか気づかないかは別の問題として、兎も角、その古小脳にある実存基幹根と云う物質が、娑婆の全生命を、生命たらしめている根本物質であるのですね?」
「そうなりますな」
「で、その根本物質の実存基幹根が非物質になる事で、娑婆にいた人間が亡者となって、こちらの世と云う異次元に移動するわけですね?」
「そうですな」
「そう云う出現の仕方ですから、どこかのルートを通ってやって来ると云うよりは、何かこう、パッと出現すると云った感じで、客船に乗る行列中に亡者として現れるわけだ」
「そうですな」
「そうすると、この我々亡者の仮の姿なんと云うものは、その、こちらの世にパッと出現するタイミングで、瞬時に形成されるのですかな?」
「そうですな。こちらの世で閻魔大王官の審理を受けるのに最適な姿態として、ま、基本的には娑婆時代のその人の、或る適当な時期と同じ姿形が自動選択されて、その姿形で仮の姿となるのです。勿論何らかの事情で、例えば赤ちゃんとか胎児の時に娑婆にお娑婆ら、いや、おさらばした場合とかで、そう云う適当な姿形が選択出来ない場合は、全く別の、娑婆時代とは無関係な風貌の仮の姿となって、こちらの世に出現する事になりますな」
 大酒呑太郎氏はゆっくりと椅子の背凭れに上体をあずけながら、様子有り気に瞑目して一つ頷いて見せるのでありました。それは閻魔大王官のあの愛嬌に満ちた仕草とは違って、あくまでもクールで、どこかニヒルな雰囲気なんぞを漂わせているのでありました。
 この二鬼は聞いた話しに依れば同い年の老人、いや老鬼でありましょうが、印象がこうも違うのは、人生の、いや、鬼生の曲折をより多く経験している大酒呑太郎氏の灰汁が、閻魔大王官よりは濃い目にその面貌の皺に堆積されているためでありましょうか。まあ、どちらのご老体も、夫々に魅力的な仁であるとは思うのでありますが。
「と云う事で、その黄泉比良坂と云う処にある洞窟については、娑婆にちょっかいを出す折の、鬼さん達の専用通路となるのですね?」
「そうです。さっきからそう云っております」
 これは亀屋技官が面倒臭そうに、横柄にも聞こえる口調で云う言葉でありました。
(続)
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ryo1216

10/4より、謎のページに自動転送されるようになってしまいました。
自分の環境では、なんとか復旧できましたが、まだ、謎のページに転送される方も多いようです。
この度は、ご迷惑おかけして本当に申し訳ございません。
そこで、下記、新しいページに移行することにしました。

http://ryo1216-2.blog.so-net.ne.jp/

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

by ryo1216 (2013-10-07 03:33) 

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