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もうじやのたわむれ 288 [もうじやのたわむれ 10 創作]

 拙生の視線に気づいた補佐官筆頭は拙生の顔を見て慌てて愛想笑って、今の所作を拙生に見られて仕舞った事に、思わずたじろぎの気色を見せるのでありました。閻魔大王官はこの先再び、拙生が宿泊施設でコンシェルジュに世話になる事なんぞ当然ないと、あっさり否定するのではありますが、その閻魔大王官のあっけらかんとした様子とは裏腹の、閻魔大王官も知らない別の事態が、実は裏にある事を疑わせる補佐官筆頭の所作であります。
 しかし補佐官筆頭に、今妙な所作をしましたねとつめ寄るのも、どこか悪いような空気を感じたものだから、拙生は口籠って訊きそびれているのでありました。
「ところでさっきの、この亡者殿の娑婆に居る奥方がこちらに現れた件じゃが、・・・」
 閻魔大王官はそう云いながら後ろの補佐官筆頭の方をふり返るのでありました。
「はい、亡者生理研究所の方に早速報告に走ります」
 補佐官筆頭は閻魔大王官に皆まで云わせず、先回りに気を利かせるのでありました。
「ほいな。そうしておくれ」
 閻魔大王官は補佐官筆頭の対応に満足気に頷いて、徐に体を元に戻すのでありました。
 補佐官筆頭は向かって右端に立っている、一番若手の補佐官に目配せを送るのでありました。するとその若手の補佐官は畏まって頷いて、きびきびとした動作で後方に下がって、そちらにあるスタッフ専用であろうドアを開けて、審理室から出て行くのでありました。
「亡者生理研究所は閻魔庁の建物の中にあるのですか?」
 拙生は補佐官筆頭の方を見ながら、少し声を張って訊くのでありました。
「ええそうです。研究所自体は第三セクターなのですが、閻魔庁の建物の中にあります」
 補佐官筆頭が同じ程度に声を大きくして返すのでありました。
「先程云うたように、この審理の後、お手前には応接室の方にご足労願う事になるのじゃが、そこに聴きとりする研究者を予め待機させておくのじゃよ」
 これは閻魔大王官の言葉であります。
「私は研究者と差しで、色々訊かれたりするのですかね?」
「いや多分、研究者は二鬼来ると思うぞい」
「何か、警察署で取り調べを受けるみたいな感じでしょうかね?」
「いやいやとんでもない。研究者は決して高飛車な対応なんぞはせんぞい。あくまで低姿勢で遠慮深く、余計な手間を取らせて申しわけない、と云った風情でお手前に対するわい」
「お手数をおかけしますのも偏に私共の都合ですから、どうぞ亡者様におかれましてはリラックスして、大威張りで対応してくださって結構ですよ。応接室では食べ物や飲み物のサービスもさせて頂きますし、他にも何かご希望があれば、出来る限りあれこれ奉仕させて頂きますよ。勿論お疲れになるといけませんから、適当な休息も入れます。まあ、亡者様は基本的にはお疲れにならない体ですが、そのくらい気を遣わせて頂くという事です」
 補佐官筆頭が巻物を懐に仕舞って、揉み手をしながら愛嬌をふり撒くのでありました。
「ああそうですか。どうせ魂魄になるまでは暇ですから、キツイ取り調べみたいな感じじゃないのなら、私としても別に億劫でも不服でもありません。むしろ亡者生理の解明、或いは向うの世とこちらの世の更なる良好な関係のために、意欲的に協力させて貰いますよ」
(続)
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