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もうじやのたわむれ 280 [もうじやのたわむれ 10 創作]

「でも大方の支持を得ているのは、妥当で自然な進化論、であると?」
「ま、そういうこっちゃわい」
 閻魔大王官は片方の手に持っている巻物で、もう片方の掌をゆっくり軽く何度か叩きながら云うのでありました。
「つまり、悠久とも思える長い時間の流れの中で、今日に於いて結果として決定されたところの、ほぼ一週間と云う亡者の仮の姿の耐用時間、と考えるのが一番自然なのですね?」
「そうじゃわいのそうじゃわいのそうじゃわいのそうじゃわいの」
 閻魔大王官の巻物で掌を叩くリズムが四分の四拍子になるのでありました。
「そうするとこの先、その一週間が例えば二週間に変化、まあ、云い様によっては進化する事も、長い々々時間の推移の果てにあり得るのですかね?」
「そうじゃな。変化する可能性はあるわいの。しかし長くなるよりは、閻魔庁の処理の迅速化に段々適応していって、どちらかと云うと短くなっていくのじゃろうて。それに思い悩みの三日間もそれ以上長くなっても、まあ、どちらかと云うと無意味じゃろうからのう」
「そう云われればそうですね。私なんかもちっとも思い悩まないで、結局三日間遊び回っていたようなものでしたからね。この辺りは将来、短く変化しても大した影響は何もなさそうですね。自然な効率から云って、成程短く変化する可能性の方が大きいわけだ」
「そうじゃろそうじゃろそうじゃろ」
 閻魔大王官の掌を叩くリズムが四分の三拍子に変化するのでありました。
「そうすると例えば、準娑婆省に拉致されるとかの拠無い理由で、生まれ変わりが妨害された場合とか、非常に横着な亡者とか無精な亡者とか、途轍もなく天邪鬼な亡者が、生まれ変わりを拒否したりした場合、その亡者は一体どうなって仕舞うのでしょうか?」
「耐用時間が切れて仕舞ったのに、生まれ変わり地が決定されなかった場合の事かえ?」
「まあそうです」
「自分の意志でも責任でもなく、やむを得ない理由、或いは事由に因って生まれ変わりが出来なかった場合は、仮の姿を喪失した後でも、どんなに時間がかかろうとも閻魔庁が責任を持って、その亡者殿が屹度生まれ変われるように努力する事になるのう」
「準娑婆省に拉致された亡者とかは救出されるのでしょうか?」
「絶対に救出するべく、準娑婆省に対して出来る限りの強硬な、場合に依っては合法ぎりぎりの胡散臭い手段を用いたり、或いはまた、ちょろっとした利をちらつかせたりなんぞして、閻魔庁の講じ得る、あらゆる手練手管を以って救出を試みる事になるわい。まあ、あくまでもその亡者殿が、生まれ変わりたいと云う了見を保持し続けている限りはのう」
 閻魔大王官は毅然とした意志を表すために、巻物でやや強く自らの掌を一つ打ってパチンと云う小気味良い音を響かせてから、その後その打撃が少し強過ぎて痛かったらしく、顔を顰めて掌を大袈裟に何度かふった後、袖の中にゴソゴソと引っこめるのでありました。
「生まれ変わりを不謹慎にも亡者自身が拒否した場合は、どうなるのですか?」
「そりゃ放っておくわい」
 閻魔大王官はあっさりそう云って、瞑目した儘何度か頷くのでありました。
(続)
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