もうじやのたわむれ 266 [もうじやのたわむれ 9 創作]
拙生は感心するような顔をして見せるのでありましたが、直後にその顔が呆れているような表情にコンシェルジュに見えたりはしないかと、ちらと危惧するのでありました。
「我が閻魔庁は、亡者様の便宜を最大限お図りすることを第一番目の庁是としております」
コンシェルジュはそう云って律義そうなお辞儀するのでありました。
「娑婆の高級ホテルも及ばない行き届いたサービスを享受して、それは充分感得出来ます」
拙生は多少のべんちゃらで返すのでありました。
「ま、そう云う事で、・・・お忘れ物がないようなら、フロントに部屋のキーと一緒に、携帯電話とか腕時計とかの貸与品をご返却いただいて、一緒に閻魔大王官の最終審理の受付票もご提出ください。その後はこのロビーを出られて、先の審理室の前のソファでお待ちいただくようになりますが、それはフロント係の方から改めて丁寧に案内させて頂きますよ」
コンシェルジュはフロントの方に掌を上に向けた腕を差し出すのでありました。
「ま、貴方に大いにお世話になった事に対して、最後に感謝の意を評させて頂きます」
拙生はコンシェルジュに頭を下げながら云うのでありました。
「いえ、どういたしまして」
コンシェルジュは拙生より深めに丁寧なお辞儀を返すのでありました。
その後フロントの方に行くと、中にいた若い女性係員が拙生の方に向き直って、先程のコンシェルジュと同じ程度の深さの礼をするのでありました。
「思い悩みの三日間を終えた亡者ですが、チェックアウトしたいと思いまして」
拙生が云うと、その女性係員はチャーミングな愛想笑いを向けてくれるのでありました。
「畏まりました。では恐れ入りますが部屋の鍵と最終審理の受付票をお出しください」
云われる儘に拙生は鍵と受付票を渡すのでありました。女性係員は先ず受付票を鍵棚の横の、審理受付票、と書いてある棚の、もう既に拙生のよりも先に提出されたのであろう、一センチ程の厚さに重ねてある紙の一番上に乗せるのでありました。それから鍵棚の方に拙生が返却したキーを戻して、代わりにそこに置いてあった紙片を取るのでありました。
「後は、私共からお貸しさせて頂いたものがありましたら、それもお出しくださいませ」
また拙生の方にふり返った女性が云うのでありました。
「はいはい。ではこれを」
拙生はポケットから携帯電話やらボールペンやらを取り出して、女性の前に並べるのでありました。メモ帖の一番上の頁には閻魔大王官に訊くべき事柄が書いてあるので、それのみは引き剥がして、またポケットに仕舞うのでありました。
女性係員は拙生の差し出したものを、先程鍵棚から取り出してきた紙片と突きあわせながらチェックするのでありました。その紙は貸与品の控え書きなのでありましょう。
「はい。これで全部、間違いございません」
女性係員はそう云って、また魅力的な笑顔を向けてくれるのでありました。
「この施設の見取り図とか、街の絵地図とかはどうすれば良いのでしょうか?」
拙生はそう聴きながら、二本の指を施設案内のパンフレットと観光案内のリールレットの上に夫々乗せて、指先で軽く交互に叩いて見せるのでありました。
(続)
「我が閻魔庁は、亡者様の便宜を最大限お図りすることを第一番目の庁是としております」
コンシェルジュはそう云って律義そうなお辞儀するのでありました。
「娑婆の高級ホテルも及ばない行き届いたサービスを享受して、それは充分感得出来ます」
拙生は多少のべんちゃらで返すのでありました。
「ま、そう云う事で、・・・お忘れ物がないようなら、フロントに部屋のキーと一緒に、携帯電話とか腕時計とかの貸与品をご返却いただいて、一緒に閻魔大王官の最終審理の受付票もご提出ください。その後はこのロビーを出られて、先の審理室の前のソファでお待ちいただくようになりますが、それはフロント係の方から改めて丁寧に案内させて頂きますよ」
コンシェルジュはフロントの方に掌を上に向けた腕を差し出すのでありました。
「ま、貴方に大いにお世話になった事に対して、最後に感謝の意を評させて頂きます」
拙生はコンシェルジュに頭を下げながら云うのでありました。
「いえ、どういたしまして」
コンシェルジュは拙生より深めに丁寧なお辞儀を返すのでありました。
その後フロントの方に行くと、中にいた若い女性係員が拙生の方に向き直って、先程のコンシェルジュと同じ程度の深さの礼をするのでありました。
「思い悩みの三日間を終えた亡者ですが、チェックアウトしたいと思いまして」
拙生が云うと、その女性係員はチャーミングな愛想笑いを向けてくれるのでありました。
「畏まりました。では恐れ入りますが部屋の鍵と最終審理の受付票をお出しください」
云われる儘に拙生は鍵と受付票を渡すのでありました。女性係員は先ず受付票を鍵棚の横の、審理受付票、と書いてある棚の、もう既に拙生のよりも先に提出されたのであろう、一センチ程の厚さに重ねてある紙の一番上に乗せるのでありました。それから鍵棚の方に拙生が返却したキーを戻して、代わりにそこに置いてあった紙片を取るのでありました。
「後は、私共からお貸しさせて頂いたものがありましたら、それもお出しくださいませ」
また拙生の方にふり返った女性が云うのでありました。
「はいはい。ではこれを」
拙生はポケットから携帯電話やらボールペンやらを取り出して、女性の前に並べるのでありました。メモ帖の一番上の頁には閻魔大王官に訊くべき事柄が書いてあるので、それのみは引き剥がして、またポケットに仕舞うのでありました。
女性係員は拙生の差し出したものを、先程鍵棚から取り出してきた紙片と突きあわせながらチェックするのでありました。その紙は貸与品の控え書きなのでありましょう。
「はい。これで全部、間違いございません」
女性係員はそう云って、また魅力的な笑顔を向けてくれるのでありました。
「この施設の見取り図とか、街の絵地図とかはどうすれば良いのでしょうか?」
拙生はそう聴きながら、二本の指を施設案内のパンフレットと観光案内のリールレットの上に夫々乗せて、指先で軽く交互に叩いて見せるのでありました。
(続)
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