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もうじやのたわむれ 255 [もうじやのたわむれ 9 創作]

 拙生はお姉さんの容姿がとても眩しくなったのでありました。もう小学生の頃のように、痩せっぽちでニコニコと笑っているだけの女の子ではなくて、見つめられるとこちらの方がどぎまぎして仕舞うような目線とか、時にこちらの非を責めるような潔癖そうな無表情なんかも仄見せてくれる、中学生の制服を纏った大人びた女性と云う風に見え出したのでありました。そのくせ拙生に接する態度とか口のきき方とかは全く前の儘で、拙生としたらお姉さんの外見の変化と、前と何も変わらない親愛に満ちたそのふる舞いのギャップに秘かに戸惑っていて、だから竟、無愛想になったり突慳貪に接して仕舞うのでありました。
 お姉さんは拙生の事を以前から変わらず弟のような存在と思っていいたのであろうし、事実弟のように何時も接してくれるのでありましたが、拙生は段々と、単に弟としてだけ見られているであろう事にも苛立ちを覚えるのでありました。しかしだからと云ってそれならどう云う風に見られたいかと云うと、それは拙生にも上手く説明出来ないのでありました。拙生がお姉さんの恋人、とは云わないまでも、対等の立場にある異性、だと云うには、拙生は如何にも幼過ぎるようでありますし、三歳の歳の差と云うのは、その頃はそう云う関係を設定するには、決定的な隔たりのように拙生には思えていたのでありました。
 拙生は以前のようにお姉さんと上手く噛みあえなくなって、次第にお姉さんを疎んじるようになったのでありました。勿論本心は、疎んじたりなんか決してしたくはないのでありましたが、しかし下手に噛みあおうとして、返ってうっかり、無様な自分をお姉さんに曝け出して仕舞う事にでもなったら、それこそ立つ瀬がないではありませんか。
 そう云う風になって、拙生が中学二年生の頃でありましたか、拙生の両親が東京に住む親類の結婚式に上京出席するために、拙生が一人で一週間足らず、家で留守番をする事になったのでありました。中学生ともなると勉強もクラブ活動の方も忙しかったし、一週間も学校を休むのは憚らなければならないと、拙生も両親も考えたからでありました。
 その間、まあ、一人で留守を預かるのは何でもないのでありましたが、拙生の食事の問題が出来するわけであります。勿論拙生が自炊をすればそれで良いのでありますが、あのおっちょこちょいに火を扱わせるのはどうしても避けたい、と云う両親の強い懸念と、三度の食事の支度なんと云うものは面倒臭くてげんなりである、と云う拙生の忌避の表明から、朝食と夕食は隣のお姉さんの家で引き受けてくれると云う相談が、両方の家の間ですんなり纏まったのでありました。まあ、お姉さんと拙生の間は随分と疎遠にはなったけれど、しかし家同士のつきあいとしては、ずっとそれくらい密ではあったのでありました。
 一週間程、朝起きると拙生は隣家に行って一家と伴に朝食をよばれ、昼の弁当は学校でパンでも買って、それからクラブ活動が終わって帰宅したら、夕食をまた隣に摂りに行くのであります。日に二度も隣家にお邪魔するのは少し億劫ではありましたが、自炊の面倒に比べれば大いに結構と、横着な拙生はその両家の合意にあっさり乗るのでありました。
 眩しくなったお姉さんと一緒に食卓を囲むのは、大いに気が重くもあったのでありますが、なあに、勉強があるとか何とか云って、食い終えたら早々に自分の家に引き上げてくればよいのであります。それにあのお姉さんと、拠無い理由、から一緒に食事の卓を囲む事が出来るのであります。この、拠無い、と云うのが、実に好都合ではありませんか。
(続)
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コメント 2

くーぺ

いつもご訪問頂きありがとうございます。
良いGWをお過ごしください◎
by くーぺ (2013-04-29 12:15) 

汎武

こちらこそ何時も有難うございます。
いたってそっけないヤツで申しわけない位です。
by 汎武 (2013-04-29 12:43) 

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