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もうじやのたわむれ 253 [もうじやのたわむれ 9 創作]

 拙生はメモ帳に、娑婆と同じ地名とこちらの世独自の地名が併存するが、何か明確なわけとか由縁でもあるのか? 亡者が生まれ変わりを拒否した場合、その亡者はその後どうなるのか? 準娑婆省に拉致されるとか拠無い理由で生まれ変わりが阻害された場合、その亡者の末路はどうなって仕舞うのか? 亡者の仮の姿の耐用時間は? 億劫ガスとか億劫電磁波の影響かどうかは知らないが、結局亡者は一定時間になると眠って仕舞うのに、カフェテリア黄泉路が四更まで営業しているのは無駄ではないのか? 夜を徹してのどんちゃん騒ぎなんと云うオプションが亡者のために設定されているが、それは結局利用出来ないオプションなのではないのか? と書きこむのでありました。その後少し考えて、(亡者の生まれ変わり拒否とかの質問は冗談めかして)、と注意書きも書きこむのでありました。
 さて、この他に何か疑問に思う事があったかしらと、拙生はボールペンのキャップで頭を叩きながら、天井の一点を見上げて思案するのでありました。しかし特段思い出せないのでありました。ま、要するにこんなところでありましょうか。他にもあったかも知れませんが、どうせ拙生の疑問でありますから、そんな深刻なもの等はないでありましょう。
 でもそう云って仕舞えば、亡者の頭に浮かんでくる疑問なんぞと云うものは、総てほんの一時の泡のような懐疑以上ではないのかも知れません。歩いていて路辺に遺棄された骨の折れた新品らしき傘とか、丸めたティッシュの少し大き目の塊を見止めた時のような、一場の戸惑いのような疑問なんぞとほぼ同類でありますか。直後にすっかり忘れて仕舞っても別に痛くも痒くもなく、波打つ水面に投じた石ころと同じで、その疑問が発せられようが発せられまいが、こちらの世での今後には何ら波紋を生じさせないのでありましょう。
 まあ、閻魔大王官への拙生の一種の愛想と考える事にしましょうか。それで会話が円滑に友好的に進行するならば可、という事であります。
 拙生は缶に残っていたビールを一気に飲み干すのでありました。外さないでいた腕時計を見ると、疑問の事を考え出してからほぼ一時間を経過しているのでありました。眠たくなるまでには、多分まだもう一時間程度残っているのでありました。
 しかし一時間では、下のカフェテリア黄泉路でたらふく食事を摂るには多分足りない時間であります。カクテルとかだけを飲みに態々行くのも何やら癪であります。今日もまたテレビを観るのも能がない仕業ですし、娑婆で読みかけの儘にしていた本もこちらにはありませんし、さてこの一時間弱の徒然を如何でか潰さんと考えていると、拙生の頭の中に先のカラオケボックスで同席した、楚々野淑美さんの面影がふと過ぎるのでありました。
 いやあの楚々野淑美さんと云う鬼は、なかなかの美人で拙生の好みのど真ん中の女性でありました。願わくはああ云う女性に娑婆でお目にかかりたかったものであります。
 ここでせっかく楚々野淑美さんの面影が浮かび上がったのでありましたから、これから寝間着に着換えてベッドに入って、眠りに落ちる準備を万端整えて、淑美さんの面影を佳肴としてビール片手に、明日の閻魔大王官の二回目の審理に備える、なんと云うのはどうでありましょうかな。拙生は娑婆でも布団に潜りこんで、碌でもない妄想に耽るのを無上の歓びとする性質でありましたから、これはなかなか魅力的な時間の潰し方であろうと思われるのであります。何も、亡者として寸暇を惜しんで動き回るだけが能ではありません。
(続)
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