もうじやのたわむれ 247 [もうじやのたわむれ 9 創作]
「後学のためにお伺いしております」
淑美さんがクールにそんな事を云うのでありました。
「後学のため、と云う事は将来その意中の方と結婚を望まれているのでしょうかね?」
「ええ、まあ。・・・」
淑美さんはそう云ってやや目を伏せるのでありました。その顔がまた何とも色っぽくて、拙生はたじろいで仕舞う程でありました。
「貴方のようなお綺麗な方には、是非とも幸せになって頂きたいものです」
「有難うございます」
淑美さんは伏せた眼を上げて、やや上目遣いに拙生の顔を見るのでありました。これもまた色っぽい表情なのでありました。いやどうも堪りませんなあ。
「そこの二鬼、じゃなくて一亡者と一鬼、その辺だけで盛り上がってんじゃないの」
藍教亜留代さんの指摘が、拙生と楚々野淑美さんの間に割って入るのでありました。「おじさま、淑美とお喋りばかりしてないで、何か歌ってよ」
亜留代さんに催促されて拙生は慌てて、取り繕うように歌詞集を取り上げるのでありました。しかしところで、拙生はここで何を取り繕う必要があるのでありましょうや。
その後に拙生が歌ったのは、これも娑婆にもあったクレージーキャッツの『ショボクレ人生』と云う曲でありました。もうちょいと淑美さんの気を引くような曲を選びたかったのでありましたが、そうするとその曲に因って拙生の下心を、自分から白状しているような按配になるように考えたものだから、態とそんなふざけた曲を選んだのであります。ま、それは拙生の不必要に体裁を気にした、取り越し苦労でしかないのでありましょうが。
この後は発羅津玄喜氏と藍教亜留代さんのデュエットとか夫々のソロで、こちらで今流行っていると云う歌、それに逸茂厳記氏の娑婆の演歌調の歌、志柔エミさんのアニメの主題歌やら、拙生の『五万節』とか『これが男の生きる道』なんと云う歌で盛り上がるのでありました。楚々野淑美さんは聴き役に徹していて、自らは歌わないのでありました。拙生は淑美さんの歌声がもう一度聞きたかったものだから、大いに残念な思いがするのでありました。それに淑美さんと差しの話しも何となくそれ以降出来なくて、拙生は少しばかり物足りなくもありましたかな。ま、淑美さんの方はそうでもなかったでありましょうが。
「さて、そろそろお開きにいたしましょうか」
歌も尽きたところで、拙生が腕時計を見ながら云うのでありました。
「もう宿泊施設の方にお帰りになりますか?」
逸茂厳記氏が拙生に訊くのでありました。
「ええ、そうしようかと。本来私はこの三日間で、こちらの世の何処に生まれ変わるか思い悩まなければならなかったのですが、すっかり遊び呆けて仕舞いました。これは亡者としての本分を忘れた迂闊で不謹慎な態度みたいで、余りにも無責任かなと今ふとそんな気がしてきたものですから。ま、何処に生まれ変わるかはもう殆ど決めてはいるのですがね」
「このカラオケ宴会がつまらなかったのでしょうかね?」
「いやとんでもない。大いに面白かったですよ」
(続)
淑美さんがクールにそんな事を云うのでありました。
「後学のため、と云う事は将来その意中の方と結婚を望まれているのでしょうかね?」
「ええ、まあ。・・・」
淑美さんはそう云ってやや目を伏せるのでありました。その顔がまた何とも色っぽくて、拙生はたじろいで仕舞う程でありました。
「貴方のようなお綺麗な方には、是非とも幸せになって頂きたいものです」
「有難うございます」
淑美さんは伏せた眼を上げて、やや上目遣いに拙生の顔を見るのでありました。これもまた色っぽい表情なのでありました。いやどうも堪りませんなあ。
「そこの二鬼、じゃなくて一亡者と一鬼、その辺だけで盛り上がってんじゃないの」
藍教亜留代さんの指摘が、拙生と楚々野淑美さんの間に割って入るのでありました。「おじさま、淑美とお喋りばかりしてないで、何か歌ってよ」
亜留代さんに催促されて拙生は慌てて、取り繕うように歌詞集を取り上げるのでありました。しかしところで、拙生はここで何を取り繕う必要があるのでありましょうや。
その後に拙生が歌ったのは、これも娑婆にもあったクレージーキャッツの『ショボクレ人生』と云う曲でありました。もうちょいと淑美さんの気を引くような曲を選びたかったのでありましたが、そうするとその曲に因って拙生の下心を、自分から白状しているような按配になるように考えたものだから、態とそんなふざけた曲を選んだのであります。ま、それは拙生の不必要に体裁を気にした、取り越し苦労でしかないのでありましょうが。
この後は発羅津玄喜氏と藍教亜留代さんのデュエットとか夫々のソロで、こちらで今流行っていると云う歌、それに逸茂厳記氏の娑婆の演歌調の歌、志柔エミさんのアニメの主題歌やら、拙生の『五万節』とか『これが男の生きる道』なんと云う歌で盛り上がるのでありました。楚々野淑美さんは聴き役に徹していて、自らは歌わないのでありました。拙生は淑美さんの歌声がもう一度聞きたかったものだから、大いに残念な思いがするのでありました。それに淑美さんと差しの話しも何となくそれ以降出来なくて、拙生は少しばかり物足りなくもありましたかな。ま、淑美さんの方はそうでもなかったでありましょうが。
「さて、そろそろお開きにいたしましょうか」
歌も尽きたところで、拙生が腕時計を見ながら云うのでありました。
「もう宿泊施設の方にお帰りになりますか?」
逸茂厳記氏が拙生に訊くのでありました。
「ええ、そうしようかと。本来私はこの三日間で、こちらの世の何処に生まれ変わるか思い悩まなければならなかったのですが、すっかり遊び呆けて仕舞いました。これは亡者としての本分を忘れた迂闊で不謹慎な態度みたいで、余りにも無責任かなと今ふとそんな気がしてきたものですから。ま、何処に生まれ変わるかはもう殆ど決めてはいるのですがね」
「このカラオケ宴会がつまらなかったのでしょうかね?」
「いやとんでもない。大いに面白かったですよ」
(続)
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