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もうじやのたわむれ 244 [もうじやのたわむれ 9 創作]

「おっと、これは失礼をいたしました」
 拙生はうっかりしたと云った感じで謝るのでありました。
「では歌います」
 楚々野淑美さんがそう云って歌った歌は、矢張り拙生には全く馴染みのない曲でありました。しかし何となく昔娑婆で流行った、荒井由実とかハイファイセットとかのニューミュージック系の歌に似ていて、それは如何にも若い女性が好みそうな曲調のもののように思えるのでありました。歌が終わると拙生はパチパチと拍手をするのでありました。
「恐れ入ります」
 楚々野淑美さんはそう云いながらお辞儀をして恥ずかしそうに笑って、可憐な仕草でマイクをテーブルの上に置くのでありました。
「なかなかどうして、上手いじゃないですか、歌が」
 拙生はべんちゃらを云うのでありました。
「いえとんでもない。あたしなんか」
 楚々野淑美さんが照れるのでありました。
「貴方の彼氏は高校の同級生だと云う事ですが、その頃からお二人で街のカラオケボックスなんかでデートをされていて、その美しい歌声を彼氏に聞かせていたのでしょうかな?」
「いえ、高校ではカラオケボックスに生徒だけで行くのは禁止されていましたから」
「え、そうだったの? あたしんところはそんな校則なんかなかったわよ」
 藍教亜留代さんが拙生と淑美さんの会話に割りこむのでありました。「淑美の行っていた高校は私立のお堅い学校だったから、色々校則が厳しかったんだ」
「お堅いかどうかは判らないけど、でも確かに色々煩い校則が多かったわね。廊下で先生とすれ違う時はちゃんと立ち止まってお辞儀をしろとか、制服の胸ポケットに何時も白いハンカチを少し覗かしていろとか、学生カバンに装飾品は一切つけるなとか」
「あたしんところは、廊下は走るな、くらいかな。まあ、走ってたけどさ」
「俺の通っていた学校、靴下は毎日換えろ、なんてお節介なのがあったな」
 発羅津玄喜氏が言葉を挟むのでありました。
「じゃあ、何処でデートしてたの?」
 志柔エミさんが発羅津玄喜氏の発言を無視して、淑美さんに訊くのでありました。
「高校生の頃は別につきあっていたわけじゃなかったから」
「何々、じゃあどうしてつきあうようになったの?」
「卒業してその年のクリスマスの日に、邪馬台銀座商店街の本屋さんで偶然逢ったのよ」
「へえ、そうなんだ。それで声をかけられて、何故か急に盛り上がった、みたいな?」
「ま、そんなとこかな」
 淑美さんがはにかみながら頷くのでありました。
「あ、おじ様が悔しそうな顔してる」
 藍教亜留代さんが拙生の方をまたもや指差して指摘するのでありました。拙生はたじろいで、おどおどと淑美さんから視線を外すのでありました。
(続)
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