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もうじやのたわむれ 243 [もうじやのたわむれ 9 創作]

「ええ、全く問題ありません」
 逸茂厳記氏が返答するのでありました。「鬼も遡って元を正せばあちらの世にいた人間の生まれ変わりですから、根っ子は一般の霊と同じです。只、我々代々の鬼の子孫はあちらの方の生まれ変わりではなくて、こちらの鬼と鬼の間に生まれた純生物学的存在と云う事で、云ってみれば娑婆での一生を経験していないと云うだけです。他には、角があるとか」
「では、鬼と霊が目出度く結婚したとして、その間に生まれてくる赤ちゃんは霊になるのですか、それとも鬼になるのですか?」
「霊です」
 逸茂厳記氏は即答するのでありました。
「向うの世にいた誰かの生まれ変わりが、生まれてくるのですね?」
「そう云う事になります」
「鬼は、鬼と鬼の間にしか生まれてこないわけだ」
「そうです。優性の法則、です」
「メンデルの?」
「いや、それは娑婆での法則でして、こちらで云う、優勢の法則、とは少し違います」
「娑婆のメンデルの法則をご存知なのですか?」
 拙生は少し驚いたような口調で訊くのでありました。
「一応高校生の時に学校の生物の時間にちょろっと習いました」
「メンデルの法則では確か、雑種の第一代では優性形質が現れて、分離の法則とか独立の法則とか、何となく小難しい理屈から、第二代以降は優性も劣性も生まれ得ると云う事だったと思うのですが、そうなると孫とかその辺の世代で鬼が生まれる事もあるのでは?」
「いや、雑種から鬼は絶対に生まれてきません。生まれてくるのは霊だけです。そこいら辺がメンデルの法則とは違うところです。こちらでは娑婆のメンデルの法則は当て嵌まりません。それとは無関係の、優性の法則、と云う名前の法則だけが存在しているのです」
 逸茂厳記氏はそう云って何故か拙生にお辞儀をするのでありました。
「鬼と鬼の間でしか鬼は生まれてこないし、霊の遺伝子が入りこむと鬼の遺伝子はその時点で消去されると云うわけですね?」
「実際はもうちょっと複雑な事情が絡むのですが、ま、そう云う感じの理解で結構です」
 逸茂厳記氏がもう一度お辞儀をするのでありました。「考えても見てください、鬼が生まれる確率が増えて仕舞えば、向うの世から来た亡者の皆さんの、こちらの世に生まれ変わるチャンスがそれだけ減るじゃないですか。そんな事では向うの世とこちらの世の連関を阻害する事になります。だから云ってみればそれは、こちらの世の節理と云うものです」
「節理、ですか。・・・」
 拙生は最初頷いてから、その後ちょいと首を傾げても見せるのでありました。
「あのう、・・・」
 横の楚々野淑美さんが拙生と逸茂厳記氏との会話に、遠慮がちな声で割って入ってくるのでありました。「あたしこれから歌を歌っても良いのでしょうか?」
(続)
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