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もうじやのたわむれ 237 [もうじやのたわむれ 8 創作]

 発羅津玄喜氏の彼女がそう自得して、すぐに機嫌を直すのでありました。「あたしの名前は、藍教亜留代って云うの。お察しの通りこの玄ちゃんのフィアンセでーす」
「おお、お二人、いや違った、お二鬼はもう婚約されているので?」
「そう。先月葛飾柴又の帝釈天裏の川甚って料理屋さんで、両家が集まって婚約式したの」
「あれ、そうなのか? 俺には何も云わなかったなオマエ」
 これは逸茂厳記氏が発羅津玄喜氏に無愛想に問う言葉であります。
「ええまあ。大学の体育会の上級生を差し置いて自分が先に婚約なんかするのも、何か後輩として生意気なような気がしたものですから、何となく云い出し辛かったんですよ」
「オマエは昔から奇妙な気の遣い方をするヤツだったが、別にそんな事があるかい」
 逸茂厳記氏がそう云って舌打ちをするのでありました。
「押忍! 申しわけありません」
 発羅津玄喜氏が頭を下げるのでありました。
「発羅津玄喜さんに藍教亜留代さんですから、名前からしても、何か明るい家庭が出来そうですね。いやそれはおおめでとうございます」
「どうも恐れ入ります」
 発羅津玄喜氏がはにかみながら拙生にお辞儀をすると、一緒に亜留代さんも口元を掌で押えてぴょこんと頭を下げるのでありました。名前の通りに愛嬌のある仕草であります。
「発羅津玄喜さんと藍教亜留代さんもそうですが、逸茂厳記さんと志柔エミさんと云うのも、何となく相応しい名前の取りあわせのような気がしますね」
 拙生がそちらの方に水を向けると、逸茂厳記氏と志柔エミさんは咄嗟に顔を見あわせるのでありました。それからみるみると二人の、いや二鬼の顔が紅潮してきて、互いに目を逸らして仕舞うのでありました。逸茂厳記氏はたじろぎと気恥ずかしさのために、苦虫を噛み潰したような表情をしてはいるのでありますが、それでも満更でもない気配も充分に窺えます。エミさんの方は俯いて口元を両手で隠して、恥じらいの素ぶりを見せてはいるのでありますが、こちらも然程悪い気はしていないようだと拙生は踏むのでありました。
「確かに!」
 亜留代さんが叫ぶのでありました。「今日初めて逢ったんだっけ、この二鬼?」
「多分そうだな。合コンとかでも過去に同席した事はなかったと思うぜ」
 発羅津玄喜氏が応えるのでありました。「確かそうですよね、先輩?」
 これは逸茂厳記氏に問う言葉であります。
「あ、うん。まあ、そうね。・・・」
 逸茂厳記氏は未だ動揺が収まらないためか、しどろもどろに返事をするのでありました。
「あんた達もあたし達と同じで、名前の相性もぴったりって感じじゃん」
 亜留代さんがはしゃぐのでありました。「この際だから二人つきあってみいれば?」
「そんな、急に何よ」
 エミさんが亜留代さんを叩く仕草をして見せるのでありました。逸茂厳記氏の顔色は赤を通り越して紫に近づくのでありました。頭から湯気が上がってきそうであります。
(続)
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