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もうじやのたわむれ 230 [もうじやのたわむれ 8 創作]

「煩い! 体育会日本拳法部に籍のあった鬼なら、上級生に対する無礼は許されんぞ」
 逸茂厳記氏が発羅津玄喜氏の胸をまたど突くのでありました。
「押忍!」
 発羅津玄喜氏が拳を作った真っ直ぐに伸ばした腕を脇にやや広げて、如何にも大学の体育会系の学生、或いは往時の応援団がするような固いお辞儀をして見せるのでありました。
「判れば宜しい」
 逸茂厳記氏は腕を後ろに組んで胸を反らして、発羅津玄喜氏の頭を見下ろしながら横柄にそう云うのでありました。
「今の貴方のそう云う表情や態度なんかは、見ように依ればなかなか男っぽくて、或るタイプの女性にはウケそうな気もしないでもないですがねえ」
 拙生は顎を撫でながら云うのでありました。
「今どきの殆どの女性は、こう云う野蛮なタイプは軽蔑するものです」
 逸茂厳記氏はそうあっさり云って、後ろに組んでいた腕を解くのでありました。「いやまあ、この際私の事はどうでも良いとして、さて、この後はどうしましょうかねえ。・・・」
「カラオケにでも行きますか?」
 発羅津玄喜氏が遠慮気味に提案するのでありました。
「どうです?」
 逸茂厳記氏が拙生に伺いを立てるのでありました。
「そうですねえ、・・・」
 拙生はやや考えるのでありました。娑婆でもあんまりカラオケなんかに行った事がないと云うのに、こちらの世に来て早々、まだ正式に霊として生まれ変わってもいない内にカラオケに行ってみると云うのも、何やら軽率なような気がふとしたのであります。
「もし男三人、いや男一亡者と二鬼では色気がないとお考えなら、私の彼女に、女の子を二三人、いや二三鬼連れてくるようにと電話を入れても良いですが」
 発羅津玄喜氏が云い添えるのでありました。それを聴いた逸茂厳記氏が思わす少し気後れしたような気配を隠せなかったのは、矢張り氏は女性が苦手である事を自ら暴露した事になるのではないかと、拙生は腹の中で秘かに思うのでありました。
 女性とカラオケで同席した時のこの逸茂厳記氏の様子を観察するのも、何やら一興かも知れないと、拙生は少々人の悪い、いや亡者の悪い事を考えるのでありました。それに拙生としても、宿泊施設のフロントの女性とか、ロビーでコーヒーを持ってきてくれた女性以外の、こちらの世の若い女性の鬼達と色んなお話しなんかもしてみたいと云う、興味と云うべきかスケベ根性というべきか、そう云う了見も確かに心の片隅にありはしますし。
「そうですねえ、それではお勧めもありますし、カラオケにでも行きますかな」
 拙生は発羅津玄喜氏の提案にやんわりと乗るのでありました。
「先輩もそれで宜しいですか?」
 発羅津玄喜氏が逸茂厳記氏に聞くのでありました。
「俺達は護衛だから、亡者様が行きたい処があれば何処にでもお伴するのが仕事だし」
(続)
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