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もうじやのたわむれ 229 [もうじやのたわむれ 8 創作]

 寄席の昼席が跳ねた後、未だ宿泊施設に戻るのは早かろうと云うので、拙生はこちらの世の巷で、こちらの世の霊がよく仕事帰りに遊ぶ遊びをしてみたい、等と提案してみるのでありました。逸茂厳記氏と発羅津玄喜氏は顔を見あわせて、さて自分達は普段仕事帰りにどう云う遊びをしているのだろうかと、改めて考えるような顔をするのでありました。
「アフターファイブの過ごし方と云っても様々ですからねえ。まあ、そうですねえ、私の場合は、この発羅津とか職場の他の仲間と居酒屋でちょっと酒を入れてから、その後はカラオケとかでしょうかねえ。そいで最後に屋台のラーメンなんか食って、それで帰ります」
 逸茂厳記氏は親指で隣の発羅津玄喜氏を指差しながら云うのでありました。それにつけても、アフターファイブ、なんと云う逸茂厳記氏の言葉から推測すると、こちらの官吏とかサラリーマンなんかは、まあ、残業のあるなしとか職種で様々ではあるとしても、一応午後五時が一般的な終業時間のようであります。その辺は娑婆と同じでありましょうか。
「例えば女性とデートなんかはなさらないので?」
「発羅津の場合は学生時代からつきあっている彼女がおりますので、そう云う事もありますが、私の方は特にそう云う華やかな事はないですね」
「彼女はいらっしゃらないので?」
 拙生がそう訊くと逸茂厳記氏は口をへの字に曲げて、憂い顔を作るのでありました。
「私は学生時代から無骨一辺倒でして、生まれてこの方、彼女のかの字もありません」
「女嫌いという事で?」
「いや、そんな事はありません。高校三年生の時に行った自己省察に依れば、私は人一倍女性が好きな方だと云う結論が出ております」
 逸茂厳記氏は真面目な顔でそんな事を呟くのでありました。
「逸茂先輩は、案外シャイですからねえ」
 発羅津玄喜氏がそう遠慮がちに云いつつ、しかしニヤけるのでありました。
「おいこら、お前なんぞが無神経にそんな事を云うな」
 逸茂厳記氏がたじろいで発羅津玄喜氏の胸を、拳で意外に強くど突くのでありました。
「女性を見ただけで、顔がポオッと赤くなるタイプですか?」
 拙生が訊くのでありました。
「いや私のご先祖様は青鬼系統ですから、そう云う場合どちらかと云うと蒼くなります」
 逸茂厳記氏はこれも真面目に応えるのでありました。
「ああ、成程」
 拙生も真面目な顔で頷くのでありました。
「いや、女性を見ただけで赤くも蒼くもなりませんよ、実際の私の顔は。女性が苦手なわけでは全くありませんし、女性と普通に会話もします。つまり単純に、何となく今に至るまで私は、巡りあわせとして女性に疎遠であったと云う事です」
「そんなんじゃなくて、シャイだからですよ。チャンスがあっても、先輩が何時も物怖じしてそのチャンスを活かさないから、結果として女性と疎遠になるんですよ」
 発羅津玄喜氏がそう評するのでありました。
(続)
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