もうじやのたわむれ 225 [もうじやのたわむれ 8 創作]
「こちらでは高校で娑婆の歴史も習うわけですね?」
「そうです。なかなか内容も微に入り細に入りで大変でしたね。霊の連中は皆各々の娑婆の記憶が蘇っておりますから、その分楽なところもあるでしょうが、そう云う記憶が何もない我々鬼は生まれて初めて習う事ばかりですから、年代順に娑婆にある色んな国々の関係性を念頭に、歴史事象を事細かに整理して覚えるのに大変難渋いたしました。娑婆史は大学入試センター試験の科目となっておりまして、我々鬼にとっては不利でありましたね」
「大学入試センター試験、なんというものも、こちらにあるのですか?」
「はい。聞くところに依ると娑婆にもそう云う制度があると云う事ですが?」
「そうですね。あります。尤も私なんかは、そう云う制度が出来る前の入試世代ですがね」
「共通一次試験、とか云う名前で最初は始まったのですが、今では大学入試センター試験、と云う名称に変わっております」
逸茂厳記氏が説明してくれるのでありました。
「ああそうですか。娑婆でも確か始めはそんな名前でしたかなあ」
拙生は娑婆で昨今行われている大学入試の形態は、殆ど何も知らないのでありました。
「・・・娑婆史、娑婆史求めて一鬼、一鬼彷徨えば、・・・なんと云う歌が最近の鬼の高校生の間で秘かに流行っているようです」
これは発羅津玄喜氏が横から節をつけて歌い、且つ云う言葉でありました。カラオケが上手だと云うだけあってなかなかの節回しであります。
「お『長崎は今日も雨だった』と云う歌に似ていますなあ。結構古い曲ですが」
「ああ、そう云う題の歌なのですか?」
「ええそうです。前に娑婆で流行った歌謡曲です。曲の題名はご存知なかったので?」
「はい。CDになっているわけでもなくて、何でもラジオの深夜放送で、或るパーソナリティーが話しの合間に、それを鼻歌でよく歌っていたのが流行ったものらしいです。まあ私は最近、深夜放送なんかは全く聞かないですから、詳しくは知らないのですが」
発羅津玄喜氏がそう云って頼りなさそうな顔をするのでありました。
「私が聞いた噂に依ると、少し前に娑婆からこちらにお見えになった或る亡者様が、座興に或る閻魔大王官の前で、その歌を披露されたのを後ろにいた補佐官の一鬼が聞いていて、家に帰ってそれを自分の高校生の息子に紹介したのが、流行る端緒であったと云う事です。件のラジオの影響もあってあっという間に、鬼の高校生の間に流布したのだそうです」
これは逸茂厳記氏が云うのでありました。「屹度鬼の高校生の気分にピタッと嵌る歌詞だったのでしょうね。それから、何でも閻魔大王官の前でその曲を歌われた亡者様は、娑婆でその曲をレコードにした、何とかと云うグループに所属しておられたとか云う話しです」
「長崎県出身の、内山田洋とクールファイブ、と云うグループですね」
「ああそうですか」
逸茂厳記氏と発羅津玄喜氏がユニゾンでそう云って、カノンで数度頷くのでありました。
まあ、そんなこんなのどうでも良いあれこれの事を二鬼と一亡者でだらだらと喋りつつ、公園の中をブラブラ歩き回って、寄席の六道辻亭に行くまでの時間を潰すのでありました。
(続)
「そうです。なかなか内容も微に入り細に入りで大変でしたね。霊の連中は皆各々の娑婆の記憶が蘇っておりますから、その分楽なところもあるでしょうが、そう云う記憶が何もない我々鬼は生まれて初めて習う事ばかりですから、年代順に娑婆にある色んな国々の関係性を念頭に、歴史事象を事細かに整理して覚えるのに大変難渋いたしました。娑婆史は大学入試センター試験の科目となっておりまして、我々鬼にとっては不利でありましたね」
「大学入試センター試験、なんというものも、こちらにあるのですか?」
「はい。聞くところに依ると娑婆にもそう云う制度があると云う事ですが?」
「そうですね。あります。尤も私なんかは、そう云う制度が出来る前の入試世代ですがね」
「共通一次試験、とか云う名前で最初は始まったのですが、今では大学入試センター試験、と云う名称に変わっております」
逸茂厳記氏が説明してくれるのでありました。
「ああそうですか。娑婆でも確か始めはそんな名前でしたかなあ」
拙生は娑婆で昨今行われている大学入試の形態は、殆ど何も知らないのでありました。
「・・・娑婆史、娑婆史求めて一鬼、一鬼彷徨えば、・・・なんと云う歌が最近の鬼の高校生の間で秘かに流行っているようです」
これは発羅津玄喜氏が横から節をつけて歌い、且つ云う言葉でありました。カラオケが上手だと云うだけあってなかなかの節回しであります。
「お『長崎は今日も雨だった』と云う歌に似ていますなあ。結構古い曲ですが」
「ああ、そう云う題の歌なのですか?」
「ええそうです。前に娑婆で流行った歌謡曲です。曲の題名はご存知なかったので?」
「はい。CDになっているわけでもなくて、何でもラジオの深夜放送で、或るパーソナリティーが話しの合間に、それを鼻歌でよく歌っていたのが流行ったものらしいです。まあ私は最近、深夜放送なんかは全く聞かないですから、詳しくは知らないのですが」
発羅津玄喜氏がそう云って頼りなさそうな顔をするのでありました。
「私が聞いた噂に依ると、少し前に娑婆からこちらにお見えになった或る亡者様が、座興に或る閻魔大王官の前で、その歌を披露されたのを後ろにいた補佐官の一鬼が聞いていて、家に帰ってそれを自分の高校生の息子に紹介したのが、流行る端緒であったと云う事です。件のラジオの影響もあってあっという間に、鬼の高校生の間に流布したのだそうです」
これは逸茂厳記氏が云うのでありました。「屹度鬼の高校生の気分にピタッと嵌る歌詞だったのでしょうね。それから、何でも閻魔大王官の前でその曲を歌われた亡者様は、娑婆でその曲をレコードにした、何とかと云うグループに所属しておられたとか云う話しです」
「長崎県出身の、内山田洋とクールファイブ、と云うグループですね」
「ああそうですか」
逸茂厳記氏と発羅津玄喜氏がユニゾンでそう云って、カノンで数度頷くのでありました。
まあ、そんなこんなのどうでも良いあれこれの事を二鬼と一亡者でだらだらと喋りつつ、公園の中をブラブラ歩き回って、寄席の六道辻亭に行くまでの時間を潰すのでありました。
(続)
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