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もうじやのたわむれ 216 [もうじやのたわむれ 8 創作]

 その辺の機微は良く出来ていると云うべきでありましょう。亡者に、億劫になると云う気分が発生する事で、閻魔庁の様々な雑事の一部が一定程度軽減出来るわけであります。
 閻魔庁も地獄省の省庁であるからには、地獄省の国家予算、いや違った、省家予算の縛りが当然あるのでありましょう。そうなると経費削減とか仕事の効率化とかの要求や、無駄遣いの厳しいチェックとかが、娑婆の会計検査院みたいなところからなされるでありましょうから、亡者の待遇に湯水の如く経費を遣う事は出来ないと云う事であります。まあこの辺りは拙生の勝手な憶測であって、然と確かめたわけではないのでありますが。
 いやしかし待てよ、と拙生は考えるのでありました。確か昨日の夜もこの部屋に戻った後に、もう外に出るのが億劫になったのでありましたか。と云う事はひょっとしたら、この部屋に亡者を億劫にさせる何らかの仕かけがあるのかも知れません。例えば、ある時間を過ぎて亡者が自分の当てがわれた部屋に入ると、亡者の、生まれ変わりまでの仮の姿たるこの体に作用する、億劫ガス、みたいなものが秘かに部屋の中に注入されるとか。・・・
 拙生は天井やら壁のあちらこちらを見回してみるのでありました。しかしそれらしいガスの吹き出し口のようなものは見当たらないのでありました。拙生はソファから立ち上がって、バーカウンターの上とか、小さな冷蔵庫の裏とか、ドレッサーの引き出しの中とか、テレビの横とか、カーテンで隠れた窓枠とか、バスルームやトイレの中も点検してみるのでありました。矢張り何処にもそれらしいものを見つける事は出来ないのでありました。
 億劫ガスではないとしたら、億劫電磁波とかが、部屋のスタンド照明なんかから出ているのかも知れません。まあ兎に角、そう云った感じの、亡者を万事に面倒臭いと思わしめる仕かけが、この部屋には施されていると云う疑いも考えられない事ではないでありましょう。膨大な数の亡者を応接するに於いて、閻魔庁の経費節約とか雑事の軽減のために。
 ま、それならそれで良いかと拙生は思うのでありました。亡者の特典を何から何まで全部享受出来ないとしても、それはそれで別に構わないのであります。娑婆を去る時、そんな亡者の特典がこちらで待っている、等とは思いもしなかったのでありますし、第一こちらに来てからもそんな強欲では、まあ云ってみれば、浮かばれないと云うものであります。
 この儘この仮の姿が、機械が自動停止するように眠って仕舞ったとしても別に結構なのではありましたが、しかしどうしたものか昨日のようにすぐには眠くはならないのでありました。拙生はふと思いついてテレビのスイッチを入れるのでありました。こちらの世でやっているテレビ番組と云うものにも、多少の興味があります。眠くなるまで一杯やりながら、寛いでテレビを観るなんと云う無精な時間の過ごし方も、一向に悪くはないではありませんか。テレビ番組から、邪馬台郡の風俗なんかも観察出来ると云うものであります。
 テレビ番組は、クラシック音楽の演奏中継とかホームドラマとか、プロ野球とか、落語や漫才のお笑い番組とか、地獄省各地を旅行してその土地の歴史や面白い風習、それに珍しい食い物なんかを紹介する紀行番組等をやっているのでありました。どれも面白そうではありましたが、その中でもお笑い番組と旅紀行番組のどちらかに、拙生の興味の的が絞られるのでありました。しかし明日寄席に行く予定でありますから、今日は取り敢えず旅紀行ものの方を観んかなと考えて、拙生はそこにチャンネルを固定するのでありました。
(続)
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