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もうじやのたわむれ 214 [もうじやのたわむれ 8 創作]

「ええ、大変満足致しました。貴方に立てていただいた行程通りに回りましたが、とても効率よく観光出来ましたよ。どうも有難うございます」
 拙生はコンシェルジュの方に近寄りながら云うのでありました。
「いや、どういたしまして。そう云ってくださると私としても嬉しい限りです」
 コンシェルジュは立ち上がって拙生にお辞儀をするのでありました。「明日の予定ももう、あの護衛係りと打ちあわせ済みのようで?」
「そうですね。明日は昼近くまでゆっくりして、その後寄席見物に行く予定です」
「ああそうですか。それはそれは」
 コンシェルジュはそう云って、笑いながらまた一礼するのでありました。「ところで今晩のご予定はいかがなさいますか?」
「この後はまたカフェテリアで夕食をしこたま食って、それから部屋で寛いでから寝ます」
「もし何でしたら、日本間の方で芸者や幇間を挙げて飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ、なんと云うオプションもございますが、それは如何でしょうか?」
「ほう、そんなオプションがあるのですか?」
「はい。これは結構皆様に好評です」
「そうですねえ、・・・」
 拙生は少し考えるのでありました。「いや、私はそのサービスは遠慮しておきます。娑婆でもそう云う宴席にごくごく偶に出た事もありましたが、私は何となく苦手でしたなあ。芸者さんなんかにこちらの方が余計気を遣いましてね。そんな必要はないのでしょうが、ま、性分ですかね。返って気疲れして仕舞うのです。ですから今日は部屋の方で一人酒を飲みながら、三途の河の夜景をぼんやり眺めて気楽に過ごしますよ。折角のご提案ですが」
「ああそうですか。まあそれは亡者様の全くのご自由ですが。因みに、カフェテリア黄泉路は、夜になると生バンドが入って、ジャズや軽音楽をやるバーになりますから、そちらで一人静かにカクテルでも飲みながら過ごす事も出来ます。一応ご案内しておきます」
「ああそうですか。そっちの方は気が向けば利用させて貰いますよ」
「こちらは四更一杯営業しております」
「随分遅くまでやっているのですね」
「亡者様は睡眠の必要がなく、しかもお疲れにならないお体なので、要望に依りなるべく遅くまでやっているのです。しかし一応そこいら辺りで切り上げないと、朝食の準備が出来ませんので、申しわけないのですが四更までとさせていただいておるのです」
 コンシェルジュはそう云って頭を下げるのでありました。
「居酒屋さんとかカラオケボックスなんかはないのですか?」
「この宿泊施設内にはありませんが、外には<亡様歓迎>の店があります。邪馬台銀座商店街近くの飲み屋街にも<亡様歓迎>の飲み屋がありますが、誘拐の件もありますから、もしそちらへおいででしたら、護衛つきでお出かけ頂く事になります」
「それは何やら大袈裟過ぎて、億劫ですなあ。ふらっと出かけると云う感じではないし」
 拙生は気後れの表情をして見せるのでありました。
(続)
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