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もうじやのたわむれ 200 [もうじやのたわむれ 7 創作]

「いや、お茶のお湯、です。実際、お茶を入れるのに使うのは水ではなくてお湯ですから、お茶の水、と云うと何となく不親切で行き届かない表現のような感じになるでしょう?」
「成程ね。まあ、一面の理屈を云えばそうですが。・・・」
 そう云えば、準娑婆省の娑婆交流協会の会長さんをしておられる大岩さんと云うお婆さんが、娑婆ではお茶の水にも住んでいたと云う事を拙生はふと思い出すのでありました。
「帰去来堂と云うのは?」
「地獄省のハラショー地方で主に信仰されているハラショー正教と云う宗教がありまして、その教会であり邪馬台郡布教出張所と云う事になりますか。建物は郡の重要文化財です」
「娑婆の、お茶の水にあるニコライ堂みたいな感じですね」
「聞くところに依れば、そちらと瓜二つと云う事です」
 それにしても漢字で、帰去来堂、とするのは無理矢理の地口遊びのような感じがするのでありました。しかしまあ、ここもその儘コンシェルジュの言を受け入れるのが、亡者としての仁義であると考えて、拙生は明確ないちゃもんをつけたりしないのでありました。
「因みにお伺いしますが、帰去来堂、と云う名前の謂れはどう云った事でしょうかね?」
「堂を起工した大教主が、赤頭巾・帰去来、と云う名前の方でしたので」
「赤頭巾・帰去来? カサーツキン・ニコライ、では?」
「いや、何でもハラショー地方の方では珍しい名前だそうで、赤頭巾・帰去来さんです」
「娑婆での国籍がロシアではなさそうですね。中国、或いは日本の方だったのでしょうか?」
「そこは私は詳しくは存じ上げないのですが、何でもその赤頭巾・帰去来と云う大教主の父方のご先祖様が、娑婆では中国系の方だった、なんと云う事を聞いた事があります。ご先祖様は娑婆の中国は六朝時代の東晋の有名な田園詩人で、唐の時代に孟浩然とかの追従者が出て有名になったとか。そのご先祖様が『帰去来辞』と云う賦を書いたとか云うので、屹度それに因んだお名前なのでしょう。いやこれは確かめたわけではありませんが」
 その儘受け入れるべし。・・・
「赤頭巾、の方は?」
 拙生は訊くのでありました。
「そちらは、お母様の方の実家のご先祖様が娑婆ではドイツにいらした方らしくて、そのご先祖様に、兄弟で学者をされていた方がいらして、何でも共同で童話を著わされたそうなのですが、その童話の中の一つの話しが由来だと云われております」
 拙生は瞑目するのでありました。なにも云わずその儘受け入れるべし。・・・
「ええと、その次に書いてある、柴又帝釈天、というのは?」
「葛飾柴又にあるお寺です」
「ああ、葛飾柴又と云えば、先程朝食を摂ったカフェテリア黄泉路の板前さんが確か、葛飾柴又から来たと云う事でしたなあ」
「そうですね。葛飾柴又は帝釈天の門前町で、鯉料理が名物です」
「ここは娑婆の方と同じ地名なのですね?」
「そうですかな。まあ、こちらの地名は娑婆と同じものもあれば違うものもあるようです」
(続)
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