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もうじやのたわむれ 174 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 拙生と鵜方氏は最初に来た警官のパトカーに乗って、暴漢達は一人ずつ、いや一霊、若しくは一鬼ずつ夫々三台のパトカーに分乗させられて、邪馬台郡警察中央署と云う処へ連れて行かれるのでありました。中央署は、住宅街から車で十分くらいの処でありました。
 夜だと云うのに暴漢達はすぐに取り調べ室に連行されて、その儘訊問を受けるようでありました。拙生と鵜方氏は応接室に案内されて、そこで事情聴取を受けるのでありました。
 我々には熱いコーヒーのふる舞いがあるのでありましたが、暴漢達には屹度それはないでありましょう。しか取り調べが済んだ後、ひょっとしたらテレビの刑事ドラマとかでお馴染の、カツ丼が連中には出るのかも知れません。まあ、もし連中に出るのなら、こちらにも出てきて然るべきであろう、なんと拙生は考えるのでありました。寧ろ連中がカツ丼なら、被害者たるこちらには鰻重とか、同じカツ丼でも上カツ丼が出てきても不思議ではないなんと、拙生がそんなしみったれたどうでも良い事に考えを巡らしていると、事件現場までやって来た、レインコートの刑事が鵜方氏に聴取の第一声を投げるのでありました。
「貴方達は閻魔大王官の審理をお受けになっている、三日間の思い悩み期間中の亡者の方と云う事ですが、あの現場にはどう云う目的でいらしたのですかね?」
「住宅街の視察散歩と云うので行ったのです」
 鵜方氏が啜っていたコーヒーをテーブルの上に置いて応えるのでありました。
「生まれ変わり候補地としての邪馬台郡の様子を、視察しておられたのですね?」
「そう云う事です」
 刑事は頷いて、前に広げた調書にその旨記すのでありました。
「時々、散歩や観光旅行中に亡者の方が行方不明になる事件が発生していると云うのは、ご承知になっておられましたかな?」
「ええ。宿泊施設の方でも、そこに立っておられる派出所のお巡りさんからも聞きました」
 鵜方氏が入口のドア傍に立っている、未だ邪馬台銀座商店街南派出所に戻らないで、我々につき添って居残っている警官の方に視線を投げるのでありました。
「本来そう云った亡者の方々の散歩なり観光なんかは、全く自由なのではありますが、我々の立場からすると、この時節、出来るだけお控え頂いた方が有難くはあるのです。・・・」
 刑事はそう云って、手にしているボールペンで頭を掻くのでありました。「いやしかし、そうは云うものの、憲法で保障された亡者の方の権利ですから、それを侵害したり制限したりするつもりは我々には毛頭ありません。でも、かと云ってですね、万全の警護体制を敷くには我々警察としてもですね、人手が足りないと云うのが偽らざる現状でしてね。まあ、今回の貴方達の被害に対しては、大変申しわけない思いをいたしてはおりますが。・・・」
 刑事はまたボールペンで頭を掻くのでありました。要するに事情聴取するに当って先ず、自分達が万全の警護体制を敷けていなかった現状を弁解しようとしているのか、権利を制限する気はないと云いつつ、ふらふら出歩くなと我々にやんわり指図しているのか、拙生には刑事のこの言の真意がよく掴めないのでありました。まあ、そう云う風に取るのは拙生の考え過ぎで、刑事の特に険しくもなっていない眉宇を見ると、一種の話しの取りかかりの愛想みたいな言葉以上ではなくて、特段の意図も了見も何もないのかも知れませんが。
(続)
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