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もうじやのたわむれ 170 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 鵜方氏が気後れする様子もなく、落ち着いて不審な男たちに問うのでありました。
「寂しい住宅街の夜道の散歩は危ねえぞって、助言してやってんじゃねえかよ」
 最初に現れた小柄な男がこちらを無礼切った口調で云うのでありました。
「ああそうかい。その助言は有り難く頂戴したから、さっさと消え失せろ」
 鵜方氏が豪胆にそう応えるのでありました。
「若し何なら、俺達が護衛してやろうか?」
 小柄な男は卑俗に笑うのでありました。
「我々の姿を認識出来るところを見ると、お前らは邪馬台郡に住む一般の霊ではないな?」
「ま、そう云う事になるな」
 男は卑俗な笑いのオクターブを上げるのでありました。
「ははあ、亡者を拉致する事件が起こっていると聞いていたが、お前らがその拉致犯か?」
「いやいや、拉致なんてとんでもねえ。面白い処へご招待して、ま、些か強引にご招待してよ、こちらの世に来た事に歓迎の意を表そうとしているだけだぜ、俺達は」
「それは結構な事だが、我々は遠慮しておく。どうせお前等チンピラ風情の歓迎の意なんて云うのは、碌でもない魂胆が裏に隠してあるんだろうからな」
 鵜方氏はクールに云って、その後失笑して見せるのでありました。
「まあまあ、そう遠慮するなよ。俺達の歓迎の意もそんなに捨てたもんじゃねえぜ」
 鵜方氏のあしらうような受け応えを聞いても、すぐに単純にカッとしていきなり声を荒げたりもせず、余裕たっぷりの薄笑いを絶やさないでいるところを見ると、存外この小柄な男、肝が据わっていて、単なるチンピラとは少しばかりわけが違うのかも知れないと拙生は考えるのでありました。ひょっとしたら宿泊施設のコンシェルジュが云っていた、準娑婆省の諜報機関かどこかに属する男なのかも知れません。そう云う事であるなら、単なるチンピラ風情なんかよりももっと性質が悪く、余程恐るべきヤツだと云う事になります。
 小柄な男が目配せを送ると、横にいた大柄で屈強な体躯の男が一人、いや一霊、若しくは一鬼、鵜方氏に近寄って、太い丸太のような腕を伸ばして、鵜方氏の肩口を乱暴に鷲掴むのでありました。鵜方氏は鷹揚に男の方に体ごと向き直りつつ、秘かに一歩横に片足を開くのでありました。すると男の体勢が少し崩れて、自然に一方の足だけに男の全体重が移るのでありました。そこをすかさず重心を落としながら、鵜方氏は大きく前に踏み出して、男の顎を掌底で突き上げるのでありました。いきなりの峻烈な反撃に、男は小さな悲鳴を発しながら大きく仰け反って、足を宙に跳ね上げて後方に転倒するのでありました。
 男は着地した時に後頭部をしたたかに打ったらしく、虚ろな目をして呻き声を上げて、小さな身じろぎはしているものの、もう起き上がってはこないのでありました。それは一瞬の、拙生にしてみれば全く意外な、瞠目するべき出来事なのでありました。
 その鵜方氏の鮮やかな反撃に、小柄な男はたじろいで、反射的に一歩後ろに跳びさがるのでありました。残った屈強な体躯の男二人、いや二霊、若しくは二鬼は、今、目の前で起こった事が信じられないと云う顔をして、鵜方氏に目を釘づけた儘、茫然と立ち尽くしているのでありました。拙生も同じく動きを失くして、瞬きを忘れるのみでありました。
(続)
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