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もうじやのたわむれ 167 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 警察官は拙生の方に手を差し出すのでありました。
「それは助かります。宜しくお願いします」
 拙生が携帯電話を手渡すと、横に立っている鵜方氏もおずおずと、遠慮気味に携帯電話を警察官の方に差し出すのでありました。
「いやあ、ご親切痛み入ります」
 拙生はそう云いながら、派出所の電話番号が追加登録された携帯電話を受け取るのでありました。鵜方氏も「恐れ入ります」と小声で呟きながらお辞儀して受け取った自分の携帯電話を、恭しく頭の上におし戴くのでありました。
「住宅街は道路には街燈が立っておりますが、脇に入ると暗がりがあったりしますので、一応何なら、懐中電灯なんぞをお貸ししましょうか?」
「いや、つるっとメインストリートを少しなぞるだけで、そんなに微に入り細に入り歩き回るつもりはありませんから、懐中電灯は結構です。折角のご親切ですが」
「ああ、そうですか。まあ、それではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
 拙生と鵜方氏は警察官にそう云われて送り出されるのでありました。
 確かにアーケードを出て仕舞うと、住宅街へと延びる道の街路灯の明かりも漆黒の闇の威圧に身を縮めていて、如何にも頼りなく見えるのでありました。
「家々の明かりはありますが、なんか人通り、いや霊通りもないし、心細い道ですなあ」
 拙生が横を歩く鵜方氏に話しかけるのでありました。
「しかし派出所の警官が、我々が散歩を継続するのをのんびりした顔で許したのですから、案外危険は少ないのかも知れませんね」
「まあ、そうでしょうかな。しかし街灯はちゃんと点っておりますけれど、なんとなく通りは暗過ぎて、こんな暗がり道をブラブラ散歩すると云うのも、散歩と云う言葉にそぐわない気がしますね。懐中電灯を借りてくればよかったですかな、こうなると」
「もう少し進むと建物も次第に増え出して、コンビニなんかもあったりするでしょうから、そうなると、如何にも東京の郊外にある住宅地の様相になってくるでしょう」
 鵜方氏は前を見ながらそう云うのでありました。
「コンビニなんという形態の店舗があるのでしょうかね、この邪馬台郡に?」
 拙生は横を歩く鵜方氏の横顔に訊くのでありました。
「さあ、それは実は私も知らないのですが、なんかそんな風な店が住宅街の中にあってもよさそうな気がしませんか、娑婆の感覚では」
「私等の子供時分には、コンビニなんかはありませんでしたよね」
「そうですね。子供時分は夜遅くまでとか、昼夜を問わず営業している商店なんかありませんでしたね。やっている店なんと云うと駅前のバーとか居酒屋とか、そう云った酒を供するところで、子供はそんな店には入ったりしませんでしたからね」
「昔は、子供は夜になったら家の外に出てはいけないと云う雰囲気でしたかな」
 そんな事を喋りながら拙生と鵜方氏は、住宅街へと続くのであろう夜の寂しい通りを、些か急ぎ足で歩いているのでありました。
(続)
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