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もうじやのたわむれ 157 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 建物の外に出ると、郡道一号線は大きな棕櫚の並木道になっているのでありました。なんとなく南国気分であります。車道を走る車も歩道を歩く霊の数も、然程混雑している風ではないけれど、さりとて閑散としていると云った風でもないのでありました。
 拙生は手に持った儘にしていた施設案内のパンフレットを上着のポケットに仕舞うと、今度は先程コンシェルジュが筆を入れた絵地図を取り出すのでありました。
「ここを西に暫く歩くと官庁街で、その先が邪馬台銀座商店街と云う事でしたね」
 拙生は西の方を指さしながら云うのでありました。
「そうですね。取り敢えずそこまで歩いてみますかな」
「なんか一本道のアーケードの商店街と云うと、私の故郷にあったアーケードの商店街を思い出しますよ。四ヶ町商店街なんと云う名前でしたが」
「地方都市に行くと、よくアーケードの商店街がありましたよね、娑婆では。私が住んでいた東京は中野にもありましたよ」
 鵜方氏が云うのでありました。
「ああ、サンモールですね、ブロードウェイまで延びる」
「そうです、そうです。ご存知ですか?」
「カカアと所帯を持った当座、私も新宿区の中井に住んでおりましたから、中野へはよく散歩とか買い物に行きましたよ。早稲田通りに出て、地下鉄落合駅辺からぶらぶら歩いて」
「ああそうですか」
 鵜方氏は懐かしそうに笑うのでありました。「私は東中野駅からすぐの処に家があったのです。そこで生まれて、こちらの世に来るまでずっと東中野です」
「そうですか。道ですれ違った事もあったかも知れませんね、向こうの世では屹度。」
「そうですね」
「貴方であるとも知らず、向こうにいる時は失礼を致しました」
 拙生が云うと鵜方氏はアハハと笑うのでありました。娑婆で同じエリアに住んでいた事があると云うので、拙生は鵜方氏に一層の親近感を持つのでありました。
「地下鉄の落合駅の近くに養神館と云う合気道の道場があったのをご存知ですか?」
 鵜方氏が訊くのでありました。
「ああ、窓に合気道と大書してある建物は知っておりましたが、それでしょうかね?」
「落合の交差点からすぐの処です。入口はちょっと脇道に入った処にありますがね」
「ああ、だったら矢張りそうかな」
「私はずっとそこに通っていたのです。近所でもあり、通いやすかったものだから」
「ほう、鵜方さんは合気道を嗜まれるので?」
「ええまあ、ほんの少々。前は武蔵小金井の方に道場があったのですが、落合に移ったのです。私は小金井の頃入門したのですが、ひょんな事から住んでいる近所に移転すると云うんで、これは願ったり叶ったりと、大いに嬉しがったのを思い出しますよ」
「そうすると長いキャリアがおありなのでしょうね。私が中井に住み始めた時にはもう、その合気道の道場はありましたからね」
(続)
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