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もうじやのたわむれ 140 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「質量もないので?」
「そうじゃ、あくまでお手前はもわっとした曖昧模糊たる存在なわけじゃ、今のところ」
「透明人間どころか、幽霊みたいな感じですかな、そうすると」
「そっちの方が近いな、娑婆の方の感覚では」
 娑婆ではなくて、娑婆で云うあの世の方に出現するところの幽霊、と云うのは何やらややこしい幽霊であると、拙生は少し考えこむのでありました。
「どうしたな、なんぞ心配事でも急に思い出したのかえ?」
 拙生が少しの間黙ったので閻魔大王官が心配してそう訊くのでありました。
「いや、そうではありませんが、・・・まあ兎に角、私は幽霊みたいなものとして、その三日間を過ごせば良いのですね?」
「そう云うこっちゃわい」
「なんか、こちらの世に生まれ変わるよりも、その幽霊みたいな感じでずっといた方が、色々面白かったり得をしたりするような気がしますね」
 拙生はそんな不謹慎な事を云ってみるのでありました。
「それは出来んのじゃ。それでは準娑婆省の連中と同じ根性になって仕舞う。それにそう云う了見を認めるならば、閻魔庁の仕事が全く無意味になって仕舞うでのう。気持ちは判らんでもないが、しかしお手前の意向は、気の毒じゃが尊重するわけにはいかんぞい」
 閻魔大王官が眉根を寄せて少し厳しい顔をして見せるのでありました。
「いやいや、それはそうでしょう。こちらにはこちらの譲れない仕来たりがおありでしょうから、それをないがしろにする気持ちなど、私には微塵もありません。単なる冗談としてお聞き流しいただければと思います。どうも無神経な事を云って済みませんでした」
 拙生は深くお辞儀をして謝るのでありました。
「ああそうかい。ところで、さっき食事も必要ないとは云うたが、しかし若し食事をしてみたいのなら、何でも食う事は出来るぞい。ちゃんと味とか匂いも感じる事が出来るようになっとるからな、お手前のその仮の姿は。幾ら仮の姿とは云え、そのくらいの楽しみがのうては如何にも味気ないじゃろうからのう、その三日間が。一応申し添えておくがのう」
「ああそうですか、食事の楽しみはあるのですね」
「三日間は、申し出てくれれば、こちらの名物料理なんぞを部屋まで運んで進ぜるぞい」
「街中での外食はだめでしょうね、住霊には私の姿が見えないのだから、店に入る事は出来ても、きっと愛想の水も運んで来て貰えないでしょうから」
「まあ、そうじゃな。一般霊の利用する一般霊の営む店での外食は都合が悪いわいのう」
「当然景勝地なんかで、お土産を買うのも出来ませんよね。ま、そうは云っても私は一文なしなので、実際は何も買えませんがね」
「しかしそう云う観光地とか街中の、ある種のお土産屋とか食堂は利用する事が出来るようになっておるのじゃよ。看板に小さく<亡様歓迎>と書いてある店なら、亡者も心安く利用出来るのじゃ。そう云う店は閻魔庁を退職した元職員なんかが常駐しておる店でな、お手前等の姿もそんな店員にはちゃんと見えるのじゃよ。勿論、お代の心配は要らんよ」
(続)
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