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もうじやのたわむれ 137 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「大丈夫です。心得ております」
 補佐官筆頭はそう云ってやや前に進み出て、手にしている巻物で閻魔大王官の冠をちょいと叩いて、ちゃんと遅ればせのツッコミをするのでありました。補佐官筆頭が叩き易いように、閻魔大王官も無意識に頭をそちらに近づけるのでありました。
「いやいや、お気遣い痛み入る」
「ところで、・・・」
 拙生が遠慮がちに訊くのでありました。「ところで、準娑婆省の悪戯を抑止する術のようなものは、地獄省側には何もないのですか?」
「今のところ何もないのう」
閻魔大王官があっさりと応えるのでありました。「準娑婆省の地獄省に対する悪戯なんと云うものは、まあ、出張してきた少しポオッとした補佐官をからかう程度で、こちらの省益を損なうとか云うような深刻な被害は、今のところ何も発生してはおらんのでのう。それに一々目くじらを立てるのも大人気ないし、逆に地獄省の度量を見透かされるじゃろうから、ま、放置しておると云うのが現状じゃ。内心は苦々しくは思っておるのじゃがのう」
「地獄省の方はそれで良いとしても、娑婆の方では準娑婆省のそんな悪戯は、実に困った事ですよねえ。まあ今更、私が娑婆を心配しても仕様がないでしょうが」
「まあ、一応過去に懸案になった事もあるのじゃよ。あまりに準娑婆省の娑婆に対する無責任な悪戯が度を超すと、何に依らず按配が悪かろうと云ってのう。関係ないのに、地獄が悪く云われる場合もあろうと、大袈裟に憂慮を表明する省会議員もいたりしてのう」
「その、省会議員、は娑婆で云うと、国会議員、ですね?」
「正解じゃ!」
 閻魔大王官は憂色を湛えた儘でピースサインをするのでありました。
「善い事は総て極楽、悪い事は何でも地獄のせいだと、娑婆の方では考えるかも知れんから、これは準娑婆省だけの問題ではないと云う論法でした、その省会議員の先生は」
 これは補佐官筆頭が紹介する言葉でありました。
「確かに準娑婆省なんと云うのがこちらにあると云う事は、娑婆では知られていませんからね。まあ、娑婆では地獄が悪い事を画策している処だとは思わないでしょうが、しかし悪い事をしている自分を懲らしめようと、或いは、後で閻魔様に怖い目に遭うぞと啓示を与えようとして、そう云う怪奇現象で警告しているとは考えるかも知れませんね。それは結局、地獄の方の意図でそう云う怪奇現象が起こると考える可能性はあると云う事ですか」
「そうでしょう? そうするとまた娑婆で地獄のイメージが歪められて仕舞います」
 補佐官筆頭が件の省会議員になり代わって心配するのでありました。
「でも、実際こちらに来てみればそうではない事がちゃんと判るのですから、そんなに気に病む事はないのじゃないですか?」
「ま、そうですが、しかし我々としてはなんとなく立つ瀬がないような、遣る瀬ないような気がするわけですよ、実際」
「ま、そのお気持は判りますが」
(続)
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