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もうじやのたわむれ 136 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「声はすれども姿は見えず、みたいなものですね?」
 拙生が訊くのでありました。
「ま、そうですね」
 補佐官筆頭が肯うのでありました。
「声はすれども姿は見えず、ほんにお前は屁のような、ですね?」
「そうじゃ、それ故に句が屁と一緒に出たのじゃ」
 これは閻魔大王官が云うのでありました。
「あ、成程、そうでしたか」
 拙生は感心するのでありました。
「準娑婆省での暮らしも長く、それに準娑婆省の政府機関に所属する大酒にとっては、そんな怪奇な悪戯をする事なんぞは、屁の河童、と云うものじゃろうからな屹度」
「成程、そこでもまた屁が出るのですね」
 拙生はこれまた大いに感心するのでありました。「とまれ、そう云う事情で、娑婆の『雑俳』と云う落語に出てくる句を、すっかり自作の句として補佐官さんがその巻物に書き留められたと云うわけですね、その大酒さんと云う方の悪戯に因って」
「そう云う事じゃろう」
 閻魔大王官は顎髭を悠然と扱きながら、自説に大いに納得したように何度か頷くのでありました。その閻魔大王官の頷きに補佐官筆頭も呼応して、巻物で自分の頭の冠を軽く叩きながら一緒に、これも何度も頷いているのでありました。
「今度準娑婆省に出張する事があって、大酒さんに逢う機会があったら、なんでそう云う、私を嘲弄するような下らない悪戯をしたのか、屹度詰問しなければ」
 補佐官筆頭は冠を叩くのを止めてそう云って下唇を噛むのでありました。
「まあ、お主が繰り言を吐いたところで、準娑婆省の悪しき風習に染まって仕舞ったであろう大酒は、ニタニタ笑って冗談みたいな、いい加減な返答をするだけじゃろうがな。ま、要するにそんな悪戯を仕かけて面白がるのが、準娑婆省の連中の無上の快楽であり、あ奴らの長崎、いや違った、性、じゃと云う事じゃわい。お主が真顔でいきり立てば立つ程、あ奴らの喜びが増すだけと云う按配じゃ。まともに相手になる程こちらが損をする事になるのじゃから、こちらも逆に鷹揚に構えて、度量の如何にも大きいところを見せておく方が損も少ないわい。いやところで、ワシの、佐賀、と、性、をかけたシャレは判ったじゃろかいの? 些かさらっと云って仕舞うたので、聴き逃されたとしたらがっかりじゃのう」
 閻魔大王官が心配するのでありました。
「いや大丈夫です。ちゃんと判っておりました。だた、未だお話しの途中でしたので、すぐさまのツッコミは差し控えていたのです」
 補佐官筆頭がそう云って閻魔大王官を安心させるのでありました。
「おうそうかいの。もしお主が無愛想に聴き逃しておったとしたら、ワシとしてはこんなに寂しい事もないわいの。まあ、実に下らない、その辺にゴロゴロ転がっておるようなシャレで、実に申しわけなくもあるのじゃが、そこは一応、年寄りの顔を立ててもらわんと」
(続)
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