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もうじやのたわむれ 119 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「それで、郡、と云うのですね?」
「そうじゃ。邪馬台郡と云っておる」
「大きくなったら邪馬台国、いや邪馬台地方となるのですね?」
「いや、その折には住霊投票でまた別の名前がつくかも知れんがの」
「住霊投票、は娑婆で云えば、住民投票、ですね?」
「正解じゃ!」
 閻魔大王官は手にしていた巻物でまた掌を一つ打ってから、その巻物を机の上に置いて丁寧なピースサインをして見せるのでありました。
「働き口が少ないのなら、邪馬台郡は失業者、いや失業霊が多いのでしょうか?」
「それ程でもないかのう。この閻魔庁や港湾施設それに郡役所で、まあ、失業対策的な公共事業はやっておるし、郡役所の主導で近隣の農地を開拓したり、三途の川で漁を指導したり、新開の別荘地の整地作業とか管理の仕事なんぞも多少あるでな。それに前に話した工業団地にも少しは誘致出来た企業もあって、ぼちぼちと操業しておるしのう。未だ住霊が少ないから、就職出来ない霊が職安の前に長蛇の列を作っているとか、多くの失業霊が為す事もなく街の繁華街に屯している、なんと云う寒々しい光景なんぞは今のところ見られないわいな。しかし、もっともっと工業団地に、雇用を生み出せる多くの企業を誘致して仕事の量や種類を増やしたり、地場の、他の地方にない、ユニークで若い霊にも魅力的に映る産業なんぞを興さないと、失業対策的な一時凌ぎの仕事や小規模な第一次産業、それに他地方への出稼ぎばかりでは、住霊の勤労意欲もちっとも湧かんじゃろうし、邪馬台郡に多くの霊が定住して郡が発展拡大するなんと云う、将来の見取り図なんぞもなかなか描けんわな。まあ、新郡長の渋沢さんの手腕に、大いに期待しておると云うところじゃな」
 閻魔大王官は眉間に憂色を湛えて云うのでありました。
「地獄省の国家プロジェクト、いや違った、省家プロジェクトとなってはいないのでしょうか、邪馬台郡を発展拡大させる事は?」
「まあ、準省家プロジェクト、と云ったところかいな、今のところは。地獄省全体としては黄熱地方とか大旅館地方とか、先ずは既存地方のテイク・オフの方が優先となっておる」
「テイク・オフ、ですか?」
 拙生は唐突に出たその言葉が上手く頭の中に収まらないので、そう聞くのでありました。
「経済発展段階説じゃよ。ロストウとか云う若い霊の説じゃそうじゃ」
「ああ、娑婆で大学生の時に、経済学の講義でそんなのを教わったような気がします」
「ワシもあんまり良うは知らなんだのじゃが、この前テレビで、何某とか云う経済評論家が、そんな事を云うておったのじゃ」
 閻魔大王官はそう云って両眉をひょいと上げて見せて、巻物を持っていない方の手の人差し指で頭を軽く掻くのでありました。
「ロストウさんと云う方も、こちらでは地獄省にお住まいなのでしょうか?」
「そうじゃな。娑婆での自説を証明出来るチャンスが地獄省の方にあるとか云って、地獄省の方に住霊登録しておる。しかし未だこちらでは合衆群地方の大学生と云う話しじゃ」
(続)
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