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もうじやのたわむれ 117 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「どうも面目ありません」
 閻魔大王官のニヤニヤ笑う顔に、拙生は俯いて頭を掻いて対するのでありました。
「お手前は娑婆では相当の無精者で、それに恐妻家であったのか、さもなくば、奥さんに何か後ろめたい事でも仕出かしておったのかいの?」
「いやいや、そうではありません。根っからの愛妻家であったが故の先の発言です」
「ふうん。まあよろしい。・・・ところで」
 閻魔大王官は疑わしげな目で拙生を見てから話頭を変えるのでありました。「審問官と記録官から地獄省の八大地方の事は聞いたかいの?」
「ええ、説明を受けました」
「どこか気に入った地方はあったかいの?」
「何れも大変魅力的な処のようで」
「そう云う曖昧なおべんちゃらは良いとして、そう云う風に云うのはつまりもう一つ、どの地方もピンとこなかったと云う事かいの?」
 閻魔大王官は拙生の顔を上目で覗きこむのでありました。
「そんなわけでもないのですが、・・・」
「しかしまあ、ピンとこなかったのじゃろう? 遠慮せずに云うて構わんぞ」
「娑婆の日本に生まれて育った者としては、もう少し娑婆の日本に近い環境の処はないものかと、ちょっとそんな事を考えていたのです」
「まあ今の、未だ娑婆っ気を引き摺っている身の心持ちではそんなじゃろうても、実際に何処かに生まれ変わってみれば、その不安と云うのか郷愁と云うのか、それはあんまり意味のない不安とか郷愁と云う事になるのじゃがな。なんせ真っ更に生まれ変わるのじゃから、その生まれ変わった処が、すっかり新たな故郷となるわけじゃしな」
「まあ、娑婆での様々な感情や誼なんかも、すっかり消去されて仕舞うわけですからね」
「そうじゃそうじゃ」
「しかしなんとなく、もっと日本に近い環境の処はないものかと、竟そう考えるのですよ」
「まあ実は、そんな場所もない事もないのじゃが」
 閻魔大王官はあっさりそう云いながら拙生から少し身を引くのでありました。
「おや、八大地方以外に、日本に近い環境の処が未だ他にあるのですか?」
「この閻魔庁のある辺りが、娑婆の日本に似ておると云えば似ておる」
「ああそうか。千代田区隼町と云う地名表記からしても、如何にも日本的だ」
 拙生は目を見開くのでありました。「ここいら辺に住む事も出来るのですか?」
「おう、それは出来るぞい」
「八大地方以外に生まれ変わる事も可能なのですね?」
「可能じゃ」
 閻魔大王官が大きく頷くのでありました。「閻魔庁のあるこの辺は、元々は鬼連中とか我々だけが住んでおったのじゃが、それではなんとも寂しいし、省土の有効利用と云う観点からも勿体ないと云う事になってな、で、近年一般の霊も住めるようになったのじゃよ」
(続)
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