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もうじやのたわむれ 115 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「極楽省には未練は全くないのかいの?」
 再度の一同の拍手で儀式を終えた閻魔大王官が、拙生に聞くのでありました。
「なんかさっきの話からすると、極楽省は住むには色々窮屈な処のようで。私としてはあの世に行ったら安らかに過ごしたいと、娑婆でも考えておりましたしね」
「あ、成程ね」
「極楽省では実際のところ、お地蔵さん、いや、石野地造さんは皆幸福に暮らしているみたいな事を仰っておられましたが、あんな厳格そうな身分制度と王様と官僚の強権支配体制の中で、一般の省霊は心の中では不満とか閉塞感とかを感じていないのでしょうかね? まあ、閻魔大王官さんにこんな他省の事を聞くのは、本当は筋違いなのかも知れませんが」
「お手前に関してはもう、地獄省に住む事をお決めになったわけじゃから、今更極楽省に忠義立てして、その件に関しては立場上ワシの口からはなにも云えんなんぞと、愛想のない事も云わんでもよかろうからぶっちゃけるがな」
 閻魔大王官はそう云って身を乗り出して拙生の方に顔を少し寄せると、声量を落として云うのでありました。「身分や家格の低い霊は、大変な不平不満をかかえておると聞き及んでおる。しかし極楽省では刑罰が厳しくてな、特に政治犯に対しては容赦のない刑を執行するし、それに密告を奨励しておって、省霊間で厳しく相互監視しておるような按配だから、省霊は沈黙を守るしかないのじゃよ。極楽省は典型的な警察省家と云うべきじゃろう」
「警察省家、は、警察国家、ですね、娑婆で云うと?」
「正解じゃ」
 閻魔大王官はそう云って頷きながら指をパチンと鳴らしてから、その指で徐にピースサインをするのでありました。
「極楽なのに、不平不満が充満しているのですか?」
「実際の極楽は娑婆のイメージとは程遠いわい。情報統制、言論弾圧、様々な差別、富の極端な偏在、省霊間の相互不信、罪科の連座制なんかで、省内は陰鬱な空気が漲っておる」
「今までに本当に、暴動とか反乱とかが起こった事はないのですか?」
「強力で暴力的で、矢鱈鼻の利く治安維持警察がおるでな、そう云うものは早々に、芽の内に摘み取られて仕舞うのじゃ」
「恐怖政治ですね」
「そうじゃ。恐怖政治じゃ」
「そんな抑圧支配が、どうして長続きしているのでしょうかね?」
「その辺があちらの官吏の、まあある意味で、極めて優秀なところじゃろうて」
 閻魔大王官は口の端にシニカルな笑いを湛えるのでありました。「ほんの少し甘い飴と、苛烈極まりない鞭との使い分けが絶妙なのじゃろうな」
「極楽省はずうっとそう云う体制で、今日まできたのでしょうかね?」
「そうじゃな。省が出来た当初は少し違っていたらしいが、阿弥陀なんとかとか云う専制君主が出現してから、ずうっとあの体制できておるな」
「まあ、長く続くと云うのは、ある意味、見事な統治システムだと云えるでしょうかね」
(続)
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