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もうじやのたわむれ 114 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「そう云う優遇される立場に在るから、公務員としての奉仕的な感覚が鈍って、ああやって、傲慢な口の利き方やら不敵なふる舞いをして仕舞うのでしょうかね、あの方は?」
「まあ、そう云うところもあるかも知れんな。しかし極楽省の役人なんと云うものは、大体あんな風な手あいが多いぞい。なにせ向こうは役人天国じゃからな」
「キリスト教かなにかの審理室だったら、極楽を天国と云い換えるのでしょうが、ま、そうすると文字通り、役人の天国というわけですかな、極楽省は」
「そうそう。そう云う事じゃわい。尤も、キリスト教の場合は、審理室、とは云わずに、審判室、となるのじゃがな。一応念のため教えて進ぜるが」
「ああ、成程」
 拙生は顎を撫でながら頷くのでありました。
「そいで、どうするかいね、他の地蔵局の役人を呼んで上げようかね?」
「あのお地蔵さん、いや、ええと石野地造さんでしたかな、あの方よりは少しは話しが出来るような方が、他にいらっしゃるのでしょうかね?」
「ま、ちいとはマシなのもおるにはおるが、しかし押し並べてあの連中は、ああ云った無神経なタイプが揃っておるかな。結局どいつもこいつも五十歩百歩と云うところかいの」
「だったらもう、地蔵局の方を呼んでもらうには及びません」
「ああそうかいの。呼ぶとまたお手前、威勢の良い啖呵を切る事になるかも知れんしのう」
「そう云う無粋な真似を仕出かす可能性は、大いにあります。どうも娑婆にいる時から、ああ云った端から高飛車なもの云いをする手あいは大の苦手でして」
 拙生は顰めた顔の前で、掌をゆっくり数度横にふるのでありました。
「まあ、そうするとじゃな、極楽に行きたいと云う希望を、お手前はもうなくしたとワシは判断して良いのかいな、地獄の方に決めたと?」
「はい、それで結構です」
 拙生があっさりそう云うと、閻魔大王官は文机の脇に置いてあるブザーを押すのでありました。すると何処からか控えめな音量でファンファーレが鳴って、拙生の頭の上に紙吹雪がちらほらと舞い落ちるのでありました。同時に閻魔大王官の後ろに控える五官が、小声で歓声を上げながら一同打ち揃って拍手をするのでありました。ふと天井を見上げると、小さなくす玉が吊るしてあって、それが割れたので紙吹雪が落ちてきたようであります。
「ようこそ地獄省へ!」
「我々は貴方のご決断を!」
「大いに歓迎いたします!」
「あなたの地獄省での新生活に!」
「幸多かれと!」
 これは五官が夫々順番に、拙生に向かって並べたかけあい科白であります。その後五官が打ち揃って、閻魔大王官も加わって、一同で「あな嬉しや、嬉しや!」と三回繰り返すのでありました。これはどうやら亡者が地獄省を選択した場合に行う、お決まりの愛想の口上のようであります。拙生はこの予期せぬ儀式に、秘かにたじろぐのでありました。
(続)
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