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もうじやのたわむれ 113 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「早速にこちらのお願いをお聞き届け頂いて、有難うございます」
 拙生に声をかけた右横の補佐官がそう云って拙生に頭を下げると、他の補佐官も全員揃って拙生にお辞儀をするのでありました。それからお地蔵さんの右横に立った補佐官が、腰を屈めてお地蔵さんに何事か耳打ちするのでありました。お地蔵さんは険しい顔をして拙生の方に視線を投げながら、その耳打ちに何度か頷いて見せるのでありました。
「では、補佐官の進言もある事だし、暫時休憩を入れるとしよう。その間、お前さんは今さっきの不謹慎な態度を、しっかり反省しておくんだな」
 補佐官の口が耳から離れるとお地蔵さんは敵意の籠った目で拙生を睨みながら、そう冷えた調子の声で云うのでありました。拙生はなにか云い返そうと思うのでありましたが、それでまた事が荒立つと、補佐官達にも閻魔大王官にも迷惑がかかるだろうと思い直して、お地蔵さんを無言で睨み返すだけにするのでありました。
 お地蔵さんは立ち上がって、大袈裟な仕草で涎かけの乱れを直すのでありました。それから拙生を不愉快気な顔をして睨み下ろしてから、すぐにプイと憎々しげに目を逸らして、机の上の書類束を掴むとその儘拙生に背を向けるのでありました。
 審理室の横手の壁、つまりお地蔵さんが背にして座っていた壁には、壁と同じ色をした、目立たない小さな扉がついていて、お地蔵さんはその扉を押し開けて審理室から姿を消すのでありました。扉の向こうは、お地蔵さんの控室にでもなっているのでありましょうか。
 お地蔵さんがいなくなると補佐官達は拙生の傍を離れて、また閻魔大王官の後ろにゆっくり歩いて戻るのでありました。
「おい亡者殿、そこでぽつんと座っていても手持無沙汰じゃろうから、こっちにおいで」
 補佐官達が元いた立ち位置に戻ると、閻魔大王官が手招きしながらそう拙生に声をかけるのでありました。確かにここに離れて座っていても、別にお地蔵さんの指示を守って先程の態度を反省するわけでもない拙生は、当面何もする事がないのでありましたから、そのお言葉に甘えて、椅子から立ち上がると閻魔大王官の前に移動するのでありました。
「お手前もなかなか、威勢の良い真似をするものじゃなあ」
 閻魔大王官はそう呑気そうな声で云いながら、拙生に前の椅子に座れと手で示して、その後長い顎髭を何度か悠然と扱くのでありました。
「どうも、了見違いの無粋な真似を仕出かしまして、慎に面目ありません」
 拙生は頭を下げるのでありました。
「いやいや、結構な啖呵を聞かせて貰って、大いに胸の空く心地じゃったぞ」
 閻魔大王官は少々高い声でヒヒヒと笑うのでありました。「そいで、もしなんなら、別の地蔵局の役人に、極楽の紹介役を代わってもらうように手配して差し上げようかの?」
「地蔵局のお役人さんは複数いらっしゃるのですか?」
「そうじゃ。ここの審理室の数の分、それに交代要員も含めてえらい大勢でこちらに来ておるわい。なんでも極楽省の地蔵局では、この閻魔庁への出向勤務はえらく高額の手当てが支給されるらしいぞい。それに滞在費も地蔵局持ちで、宿舎はこちらが用意するから、連中はこちらにいる間、びた一文も身銭を切る必要がないと云う按配になっとる」
(続)
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