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もうじやのたわむれ 101 [もうじやのたわむれ 4 創作]

 褒めたと勘違いされたた儘では少々癪に障るから、拙生はお地蔵さんの脇腹辺をちょっとつっ突いて、たじろがしてやりたくなるのでありました。
「その百九十九代は長子相続でしょうか?」
「それが原則となっておる」
「中には、男子、或いは子供そのものに恵まれない王様もあったでしょうに?」
「そう云う場合は王様に一番近い血縁者が相続をする事になる」
「まあ、歴史的に見ても娑婆でも王位継承は大体そんな感じだったでしょうが、例えば王位継承時に王様の子供同士でもめたりする事はなかったのですか?」
「ま、ないこともなかったかが、概ね今まではすんなりと継承されてきておる」
 お地蔵さんは屹度、拙生を怖い目で睨みながら「ない!」と断言するだろうと思っていたのでありましたが、ここはあっさりと「ないこともなかった」等と宣うのは、少々意外ではありました。厳めしく装ってはいるものの、根は案外正直な御仁なのかも知れません。
「王様に第一夫人とか第二夫人とか、傍女だの御手付だのがいたりして、その夫々の子供が大勢で王位を狙うなんとなったら、それはもう目の眩むほど複雑な様相を呈して、俄かには収拾がつかなくなったりとかするのでしょうかね?」
「そう云う事のないように、王様は愛妻家であり、しかも婦人は一人だけと決まっておる」
「いや、そう建前上は決まっていたとしても、そこは男女の機微、なかなか傍が思う程上手い按配にはいきませんでしょうに」
「いやいや、我々優秀な官僚が王家も王様の身辺もちゃんと監視、・・・いや、善導して、何事に依らず手際よく取り仕切るから、大事には至る事はない」
「王様と云えども、官僚には従わなくてはならないのでしょうかね?」
「勿論その通り。我々なくして極楽省はどうにも立ち行かん。例え王様が多少ボンクラであっても、・・・いや、多少地位とその資質に齟齬がある御方であっても、我々官僚がそこは強力にコントロールして、・・・いや、サポートして、問題のないように万事取り計らう」
「中国の前漢を簒奪した王莽みたいなのが出てきたりはしませんでしたか、今までに?」
「そんな者の出現を許さないのが、我々官僚の力だ」
「その官僚の中から、簒奪者が現れたりとか。王莽だってそんな感じでしたでしょうし」
「それはない!」
 今度は、お地蔵さんは拙生を睨んで、きっぱりと断言するのでありました。
「しかし今まではなかったとしても、官僚が王様をもコントロールする力を持っているとすれば、今後ないとも限らないではないですか?」
「云っておくが我々は王様をコントロールしているのではなく、サポートしておるのだ」
 お地蔵さんは不快気にそう云って、拙生から目を離すのでありました。「まあ、私が迂闊にもコントロールなんと云う失言をしたからいかんのだが」
「でも、コントロール、と云う言葉を、うっかりだとしても今お使いになったと云う事は、つまりそう云う意識が心底におありになるからではないのですか?」
「そんなものはない!」
(続)
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