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もうじやのたわむれ 99 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「霊格、と云うものが居住区を制限するのですか?」
 拙生は問うのでありました。
「当然の事だ」
「霊に格があるのですか?」
「それも当然の事だ。居住霊間に格による序列があってこその統一感、一体感だ」
「極楽省に住む霊は、一律に身分は平等なのではないのですか?」
「そんな事はない。生まれながらに身分は決まっておるわ」
「その身分と云うのか、序列と云うのか、それはどうやって決められているのですか?」
「極楽省への貢献度、というものが名目的には第一で、大体は家柄とか裕福度だな」
「裕福度、ですか?」
「それも当然じゃ」
 拙生は首を傾げるのでありました。まあしかし娑婆で戒名をつけて貰う場合にも、出す金品に依って、文字数が多くもなったり少なくもなったり、院号やら院殿号がついたり、居士やら大姉と云う位号が貰えるのでありましたから、それは確かに裕福度と云うのも、極楽往生の必須条件なのかも知れないとも思うのでありました。
「因みに、娑婆でつけられた戒名とかも、序列の決定に作用するのでしょうか?」
「それはない。そんなものこちらの世とは何の関係もないわ」
 お地蔵さんは無表情の儘あっさりと云うのでありました。
「家柄、と云うのはつまり、どう云う家柄の霊が序列の上位にくるのでしょうかね?」
「まあ、何処までも古く家系を遡る事の出来る家が、由緒正しい家と云う事になるな」
「つまり娑婆で大昔に亡くなった人がこちらで興した家、と云う事でしょうかね?」
「ま、大雑把に云うとそうなる。幸運にもそう云う家にこちらで生まれ直った亡者は、生まれながらにして上位の序列を獲得出来る事になる」
「古い家と云うのは、娑婆で名家と云われていた家がその儘、こちらでも名家になるのではなくて、あくまでもこちらにやって来た時期の古い順と云うわけですね?」
「ま、そうなるな。大雑把ではあるが」
 してみると極楽省で最も良家と云われている家の一つの祖が、類人猿とか云う場合もあるかも知れないし、ひょっとしたら恐竜が興した家とか、古代魚や三葉虫が初代の家とか云う、やけに古い名家があったりするのかしらと拙生は考えるのでありましたが、その辺の事情をお地蔵さんに迂闊に聞いたりすると、屹度不謹慎な戯れ言を云うなとお叱りを頂戴するであろうから、その質問はぐっと飲みこんで、口の外には出さないのでありました。
「序列決定の名目的要件たる、極楽省への貢献度、と云うのは?」
「それは、これも大雑把な云い方をすれば、極楽省の発展に寄与した霊、となるが、要するに大概は極楽省の省家公務員たる我々官吏が貢献度随一とされておる」
「省家公務員、は娑婆風に云うと、国家公務員、と云うことでしょうが」
 拙生はそう云って口を窄めるのでありました。「要するに、極楽省は官僚支配の、厳然たる身分社会、序列社会と云う事なのですね?」
(続)
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