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もうじやのたわむれ 77 [もうじやのたわむれ 3 創作]

「生まれ変わって頂く?」
 拙生はやや身を乗り出して、眉根を寄せて審問官の顔を見るのでありました。
「そうです。でないと、こちらでの新生活を、お爺ちゃんやお婆ちゃんの風体で始めなければならない方が多くなりますし、こちらの平均寿命からしても、例えば九十歳なんと云うのは未だヒヨッ子の年齢ですしから、何かと不都合があるわけです」
 審問官がそう云いながら、ボールペンをくるんと指先で回すのでありました。
「ああ、成程ね。それで生まれ変わる必要があるのですね」
「折角の新規蒔き直しのこちらでの新生活なのですから、態々老人の風体からそれを始めなくとも良いではありませんか」
「そりゃそうですな。ご尤も」
「一応、出だしくらいはまっ更でいく方が、誰でも気持ちが良いでしょう」
「しかしその、生まれ変わる、と云うのは、つまり具体的には、いったいどう云う風な具合になるわけでしょうか?」
「はい、例えば亡者様が地獄省の無休地方に住む事をご希望されたとしたら、無休地方の或る女性の体内にその赤ちゃんとして宿って頂きます」
「赤ちゃんとして宿る?」
「そうです」
「そんな事が可能なのですか?」
「ごく普通に行われている手続きです、こちらでは。まあ、儀式と云っても良いですが」
「ごく普通、ですか。・・・」
「で、出産となって、その後は、一般的にその女性の子供として養育されて頂きます」
「こちらの世に、新しい生命として誕生するわけですね?」
「そうです。そんな感じです」
「ちなみにお伺いするのですが、今私が使用した、生命、と云う言葉は、なにか違う言葉に置き換えなくとも良かったのでしょうか? 云った後に、なにやらそんな気がちらとしたものですから、一応お聞きするのですが」
「まあ良いでしょう、ここは、生命、で。一々細かく置き換えていると、話しがぎくしゃくとしたり、まわりくどくなっていけませんからな」
 審問官はそう、ざっくばらんな事を云うのでありました。
「ああ、そうですか」
 拙生はなんとなく肩すかしを食ったような気がするのでありました。
「で、どんな女性のお腹の中に宿るか、それは希望出来ませんことを申し添えておきます」
「ああ、そうですか」
「受付順に、ごくシステマティックにそれは決まります」
「ああ、そうですか。で、それは誰が決めるのですか?」
「審理の決裁順ですよ。誰と云う事はありません。ほら、娑婆で病院に行ったら先ず診察券を出して、その順番で診察室に呼ばれるでしょう、あれと同じようなものです」
(続)
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