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もうじやのたわむれ 76 [もうじやのたわむれ 3 創作]

「いやそんな事はありません。私のもじりも審問官さんのもじりも記録官さんのもじりも、どっこいどっこい、何れも五十歩百歩の出来だと思いますよ」
 拙生は記録官を慰めるのでありました。
「まあ、敢えて正しく云い直すまでもないでしょうが、急いては事を仕損じる、です」
 審問官がそう云ってテーブルをボールペンでポンと打つのでありました。「ま、地獄省の方も積極的なご検討を、どうぞ宜しくお願い致します。」
「そうですね、充分考慮させて頂きます」
「お決まりになりましたならその旨、閻魔大王官にお伝えくだされば、繰り返しになりますが、大王官の方から八大地方のもっと詳細な説明が行われます」
「判りました」
 拙生はそう云ってお辞儀をするのでありました。
「さて、何か貴方の方から地獄省に関して、これは聞いておきたい、なんと云うような事が他にありますでしょうか? なんでも結構ですから」
「そうですね、では、前の方の話しで、娑婆の方で国籍も宗教も、文化も風習も言語も違う環境でバラバラに一生を過ごしてきた我々亡者が、地獄省の何れかの地方で一緒に混じりあって住んで、上手くやっていけるのかと云うような質問をした時に、住む省が決まった後にちょっとした絡繰りが施される、なんと云うお話しをされておられましたが、その、絡繰り、と云う事について、どう云うものなのかお話し頂けませんでしょうか?」
「ええと、そう云うお話しをしましたかな?」
 審問官が小首を傾げるのでありました。
「ほら、記録官さんが私の仕様もない質問のために、態々調べてくると仰ってこの部屋を出て行かれて、その後、丁度戻って来られる直前に話していた事ですよ」
「うーんと、・・・」
 審問官が天井を見上げながら、その時の状況を思い出そうとしているのでありました。
「あれ、お忘れでしょうかね?」
 拙生は審問官のやや突き出された顎を見ながら聞くのでありました。審問官はしばらく顎の先端を拙生に披露していた後、徐にそれを元に戻して拙生を見るのでありました。
「ああ、思い出しました。例えば、アメリカ人とフランス人とロシア人と中国人と日本人が、急に一緒の地方で近所づきあいする事になって、上手く意思疎通とかが出来るのかとか、小難しい問題が起こりはしないかと云うような貴方のご懸念でしたかな?」
「そうです、そうです。そこで審問官さんが、心配ない、ちょっとした絡繰りが施されるから、なんと仰って、それはいったいどう云った絡繰りかと私が聞いた時に、丁度記録官さんがこの部屋に戻って来られたのです」
「はいはい、そうでしたそうでした」
 審問官は手を打って数度頷きながら、拙生に笑いかけるのでありました。「それはですね、亡者様が地獄省に住む事をお決めになったら、その後で、亡者様には一度生まれ変わって頂く事になっているからです。これは極楽省でも矢張り同じ絡繰りが施されます」
(続)
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