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もうじやのたわむれ 73 [もうじやのたわむれ 3 創作]

 それから千代田区隼町の円の上方に、と云う事は恐らく北に、東滑地方、と記してあり、これも歪な円で囲ってあるのでありました。その東滑地方の横にはこれも同じような円囲みで、ハラショー地方、と記してあり、他の六つの地方に関しても、先に拙生が頭の中に描いた地図とほぼ同じ位置に描いてあるのでありました。
「これが地獄省の大まかな省界地図と云うか、地方の位置関係図です」
 拙生がその図を概観し終えたのを認めて、審問官はそう云うのでありました。
「お手数、まことに有難うございます。大体私の頭の中に描いた地図と一致しております。しかし、私の納得しかねる点と云うのか戸惑いと云うのか、それはこの位置関係ではなくて、閻魔庁のある処だけが、なんで千代田区隼町と云う、世界地図規模、いや省界地図規模で記されるべき地名とは云い難い、如何にも細か過ぎる地名なのか、と云う点なのですけれどね。いやしかし、この省界地図を描いて頂いた労を、無駄な事だと云っているのでは決してありません。これはこれで後程大いに参考にさせて頂きますから」
「ああそうですか」
 審問官は渡した図を、あんまり拙生が有り難がっていない様子である事に落胆したようでありました。拙生はなんとなく我が愛想のなさを、申しわけなく思うのでありました。
「貴方の混乱と云うのか戸惑いと云うものは、あまりに娑婆の地名表記の形式と云うものに、拘り過ぎていらっしゃるからなのではないでしょうか?」
 これは記録官が云った言葉であります。「それは確かに、娑婆に於いては国名の下に州とか郡とか県の名前とかがきて、その下に市町村名があって、そのまた下に字名とか町丁目がきて、と云う風になっているのでしょうが、そう云う区分と云うのか順序と云うのか、それをそっくりその儘こちらの地名表示の形式に当て嵌めるのは、云ってみれば無意味でして、歴史的にも習慣の上でも効率の上でも、こちらにはこちらの仕来たりと云うものがあって、娑婆と全く同じような風になるはずのものではないのですよ」
「ここでは『我々は宇宙人だ』の法則は適用されないのですね?」
「いや、ちゃんと地名があると云う点で、法則性の内です。娑婆だって国名の下に県名があって、その下に郡名がきて字名がくるという国もあれば、国名の下に州名がきて、その下に郡名がきて、その後に県名がくると云う処もあるでしょう」
「つまり、娑婆の国名とか州名とか町名とかを、まったく区分に拘らずに一纏めに、私の頭の中でシャッフルして仕舞えばいいのですね」
「そうしてください。或いは、閻魔庁は地獄省の中の、特別行政区域であるとお考えになる方がすっきりするかも知れません。娑婆風に云えば世界地図規模の特別行政区域です」
「で、その特別行政区域の名前が、千代田区隼町、なわけですね?」
「そうですね」
「バチカン市国、みたいな感じかな?」
「ま、イメージはなんでも結構です。ご納得さえ頂けるなら」
「既定事実としてそう云う名前がついているわけだから、色々考えずに素直に受け止めれば良いのでしょうね。元々、新参者の私がとやこう云う問題ではなかろうし」
(続)
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