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もうじやのたわむれ 71 [もうじやのたわむれ 3 創作]

「ここも、先程紹介して頂いた黄熱地方同様、これからの地方と云うわけですね」
「その通りです」
 審問官はそう云って少し背筋を伸ばすのでありました。
「しかしなんとなく、娑婆で日本人だった私なんかには、そう云うイケイケ調の地方は、ちょっと疲れて仕舞うんじゃないかとか思いますね」
「でも、娑婆で日本人でいらした方も、多く無休地方に移霊されておりますよ。特に、タラジル郡と云う処の特産品であるコーヒー豆の栽培農園なんかに就職されて、地道にこつこつ働いて、その後自分の農園を持った、なんと云う成功霊、いや成功例が一杯あります」
「移霊、は、移民、ですね?」
「正解!」
 審問官は今度はごく普通に云って、ごく普通のピースサインを出すのでありました。
「私が先程入れて差し上げたコーヒーも、実は無休地方で産した豆のものですよ」
 記録官が云い足すのでありました。「タラジル郡産の、カスジル、と云う高級品種の、香味豊かな豆から作られたインスタントコーヒーです」
「鱈汁郡産の粕汁?」
「いや、タラジル郡産のカスジル、です。なんならもう一杯入れましょうか?」
「いや結構です。コーヒー好きなくせに、私には豆アレルギーがありましてね。摂取し過ぎると後であちらこちら痒くなるもので、そうたんとは飲めないのです」
「ああそうですか。それではそんなにお勧めするわけにもいきませんねえ」
 記録官は残念そうに云うのでありました。拙生は拙生の遠慮が記録官の気分を損ジルのではないかと案ジルのでありました。
「今までのお話しで推理すると、無休地方は合衆群地方の南にあるのでしょうね?」
「そうですが、それ、云っておりませんでしたでしょうか?」
「ええ。いきなり鎮守の祭りの話しになりましたから」
「ああそうでしたね。これは迂闊でした。申しわけありません」
 審問官が頭を掻いて拙生にお辞儀をするのでありました。
「地理的なところを私なりに概括させて貰うと、この審問室のある閻魔庁から北に行くと東滑地方、東滑地方の西隣にハラショー地方、閻魔庁から真西に、と云う事は多分ハラショー地方の南に位置すると思われますが、そこに大旅館地方、大旅館地方の更に西に強艦地方、強艦地上の南には黄熱地方、強艦地方からまたまた西に大西江を渡って合衆群地方、合衆群地方の南と云いますからここも黄熱地方から西に太平江を渡った辺りにあるのが無休地方、閻魔庁の南にある太平江の中に大小傑地方となるわけですよね?」
 拙生は指を折りながら地獄省の八大地獄、いや八大地方の名前を列挙するのでありました。紹介された各地方の特色から、頭の中に娑婆の世界地図を広げておけば、なんとなくではあるものの大凡の位置関係は理解出来るのでありました。
「ま、そんな感じです」
 一緒になって、指を折りながら聞いていた審問官が肯うのでありました。
(続)
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