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もうじやのたわむれ 69 [もうじやのたわむれ 3 創作]

「貴方に悪意がない事は、全く承知しております」
 審問官はそう云って笑いながらゆっくり掌を拙生に向けて、拙生の掌の横ぶりを止めさせようとするのでありました。「兎に角、その三日三晩休みなく踊り狂う奇祭によって、無休地方と云う名前がついたと云うわけですよ」
「無休地方に住む霊は皆、その祭りに参加しなければならないのでしょうか?」
「いや、そんな事はありませんが、一応地方内の各群、群の下の行政区分の県、そのまた下の区分たる町単位、或いは職場単位で参加することになりますが、勿論、町内に住む霊総ての参加が義務づけられているのではなくて、各家或いは各霊の自由意思で参加します。そう云った馬鹿騒ぎが嫌いな霊とか、その家の家風とかその他の理由で参加しない霊もありますからね。そこはあくまで、民主的に個霊の意思が尊重されます。しかし皆さん結構積極的で、その、年に一回の祭りを楽しみにしているノリノリの霊が殆どですかな」
「ノリノリですか。ふうん」
「特に町内の若い衆の張り切りようは大変なもので、その祭りのために一年間懸命に働くような連中も大勢いますよ。祭りでワッと一年分を散財して、スカッとすっからかんになると云うのが粋な若い衆とされておりますかな」
「雨が降ろうが槍が降ろうがわっしょいわっしょい、ですね?」
「そうそう、すっかり、捩じり鉢巻き揃いの浴衣、みたいです」
「しかし神輿が繰り出すのはまあいいとして、バックに流れる曲とか練り歩く楽隊の演奏する音楽はサンバで、踊り手も裸に近い、鳥の羽飾りなんかの衣装なんですよね?」
「そうです。若い女性の霊のそう云う際どい衣装で踊る姿を目当てに、カメラを手にした、なんか祭りに如何にも不相応な、アニメのキャラクターのTシャツなんかをダラっと着た、或いは今時流行らないサファリジャケットなんかを着た、一様に小太りで眼鏡をかけた連中が、踊りの行列に如何にも胡散臭気についてまわったりします」
 拙生はその審問官の言葉で、娑婆の、浅草のサンバ・カーニバル辺りをぼんやり想像するのでありましたが、しかし無休地方を挙げての年に一度の祭りと云うことなので、その規模は比べるべくもないに違いありません。
「無休地方の知事さんは何方なのでしょう?」
 今までの話しの流れから、屹度、娑婆にいる時有名だった歴史上のか誰ではあろうと拙生は考えるのでありました。しかしこの地方に関連があるであろう人名が、俄かには思い浮かばなかったものだから、拙生はそう審問官に訊ねるのでありました。
「はい、前田光世さんです。地方知事さんの中では、一番の若手の方です」
「前田光世さん?」
「そうです。娑婆では日系と云われていた方です」
「その方は移民かなにかで無休地方に行かれて、そこでなにか偉大な業績を残されたとか云う方なのでしょうか?」
「そうです。ほら、コンデ・コマさんですよ」
 記録官が横から云うのでありました。
(続)
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