SSブログ

もうじやのたわむれ 65 [もうじやのたわむれ 3 創作]

「その、主島たる大きな島の名前はなんと云うのでしょうか?」
 拙生はそう聞くのでありました。
「オーシテクレヤ島と云います」
「おしてくれや?」
 拙生は語尾を上げて復唱するのでありました。「なんか温泉旅行に行った宿で、風呂に入って夕食も済んで、その後按摩さんを呼んで貰って、布団に寝そべって揉んで貰っていると、旦那さん肩がひどく凝っていますねえ、なんと云われてギュッとやられて、おうそこそこ、なんと気持ち良さそうな声を上げると、こう云う肩凝りの人は腰や脚の方にも凝りがありますよ、なんと云われて、ああそうかい、なんと応えて、どうですここは? なんと腰を押されながら聞かれて、うーんそこもキクねえ、なんと応えて、もっと強めに脚の方もやりましょうか? と聞かれた時に、何度も頷きながら云う科白みたいですねえ」
「何ですかそれは?」
「いや、何でもありません。・・・」
 拙生はモジモジしながら下を向くのでありました。
「オーシテクレヤ島の北岸は熱帯に属していて、暑くて明るくて、長大な白砂の河岸線が続いていて、通年、サーフィンやダイビングをする霊とか、それにのんびり休暇を楽しむバカンス客で賑わっています。魅力的な釣りスポットも至る所にあります。豪華なリゾートホテルが多く建っていて、長期滞在用のコンドミニアムタイプの宿泊施設も、格安の省霊宿舎や省霊休暇村、それに霊宿や船宿なんかも揃っていますよ」
「省霊宿舎は娑婆の国民宿舎、省霊休暇村は国民休暇村ですね。と云うことは霊宿と云うのは、民宿、のことでしょうかね?」
「その通りです。娑婆では民宿に当たります」
 記録官は数回、顎を上下に動かすのでありました。
「常夏の南海の楽園気分を満喫出来る、と云う感じでしょうかな?」
「正しくは、南河の楽園、です」
「ああそうか、太平江は海ではなくて河川ですものね」
「そう云う事です」
 記録官はまた数度、顎を上げ下げするのでありました。「一方南岸は一転して寒冷地でして、こちらではホエール・ウォッチングが出来ます。それに街に近い処に通年営業のスキー場も多いですかな。スノボとかスキー客でこちらの方も一年中賑やかですよ」
「ホエール・ウォッチング?」
 拙生は首を傾げるのでありました。「太平江は海ではなくて河でしょう?」
「はい、河です」
「河にクジラがいますか?」
「これがいるんですなあ。こちらではクジラも環境適応して、淡水でも生きられるのです」
「ふうん、環境適応ねえ」
 拙生はここは頷かないで、胡散臭気に顎をやや前にせり出させるのでありました。
(続)
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。