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もうじやのたわむれ 55 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「それは何とも切ない事で」
 審問官が気の毒そうに云うのでありました。
「それじゃあ、その切なさを解消するために、話しを元に戻します」
 拙生は両腕をテーブルの上に組んで置くのでありました。「娑婆で云われていた閻魔様のお裁きの、その実態の方は、つまりどう云うものなのでしょう?」
「まあ、この審問室で貴方のご希望を予めお伺い致しますが、その後に閻魔大王官の審理室の方へ行って頂き、そこで地獄省か極楽省のどちらに住霊登録するか、閻魔大王官の前で明瞭に意思表示して頂く事となります。閻魔大王官はもう少し詳しく貴方のご希望等をお伺いして、まあ、前にちょっとお話しさせて頂きましたが、そのご希望に添うように決裁書類を作成して決裁印を押して、それを、極楽行き、地獄行き、再審理、と云う三つの箱のどれかに入れます。それだけです。まあ、閻魔大王官は基本的に地獄省に所属する役人ですから、貴方が地獄行きをご希望の場合、各種の地獄、つまり省内の八地方ある居住地域の詳細なご紹介をさせて頂き、どこをご希望されるかをお伺いすると云う事もその後にさせて頂きます。これは地獄省専用の別の決裁書類を作成して、これも別の八つの箱の方へ、そのご希望に沿って書類を入れます。まあ、これで手続きはほぼ完了となります」
「その一連の手続きにはこちらの希望が最優先で、そちら様のご意向、つまりお裁きみたいなものは全く反映されないのでしょうか?」
「はい。こちらでは亡者様のご希望に、なんらの意見も意向も差し挟みません」
「するとここで行われている事も、閻魔大王官の決裁も、それは、審問とか審理と云う程の事ではないのですよね?」
「そうですね。歴史的にそう云われてきたから、一応、審問とか審理なんと云う無粋な云い方をしますが、まあ、ご紹介とかお手伝い、の方がより実際を反映しておりますかな」
「ではここも、審問室、とは云っているものの、実際のところは、あの世紹介室、とかなんとか云った方が適切なのですね?」
「そうですね。ま、あの世紹介室と云うべきか、この世紹介室と云うべきか。・・・」
 審問官は意外にあっさりと頷くのでありました。
「それに貴方のお役職も、審問官、と云うのとはちょっと違うわけですかな?」
「全くそうです。実際は、紹介係りとか案内係りですな」
「序でに云えば。私の方は記録官と称しておりますが、これも記録する事と云ったら、亡者様にこちらの世の大まかな紹介をちゃんとしたかどうか、書類にチェックを入れるだけの至って呑気な仕事ですから、まあ、確認係りとか念入り係り、なんと云うところですね」
 これは記録官が横から云う科白でありました。
「娑婆の方で旅行先の観光地なんかにある、ビジターセンターみたいな感じですよ、この部屋は。さしずめ私なんかはそうなると、観光地の名前を大書してある印半纏を着た観光案内係りで、青木君はその賑やかし係りと云った按配でしょうかな」
「なんか、ぐっとくだけた感じになりますね」
「そんなものですよ、実際は」
(続)
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