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もうじやのたわむれ 52 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「たとえば国境紛争地域の亡者なんかは、どう云った国別に区分されるのでしょうか?」
 拙生は少々こみ入ったところを質問するのでありました。
「当然、国境未確定地域、と云う名前の審問室があります」
「ああ成程。では葬儀の宗旨の方も、無宗教、なんと云う括りもあるのでしょうね?」
「はいその通りで」
 審問官は何故か愛想笑いながら頷くのでありました。「こちらでは無宗教と云うのも、一般には無宗教教、区分の必要な場合は無宗教教諸派と云う宗旨として扱わせて頂いております。勿論そんな風に区分される事にご不満の向きもあるでしょうが、一応便宜のため以上の意味はないと云う事を丁寧にご説明申し上げて、亡者様各位にはなんとかご理解を賜っております。その辺は一応、抜かりなく努めさせて頂いておる積りでおります」
「そうなるとその線に沿って云えば、国籍がカシミール国境未確定地域で、葬儀の宗旨が無宗教教、或いは、国籍が西サハラ国境未確定地で、葬儀の宗旨が無宗教教諸派ニヒリスト部、なんと云う区分なんかもひょっとしたらあるわけですかな?」
「ニヒリスト部、と云う区分けはありませんがね」
「ああそうですか」
 拙生は頷くのでありました。「兎に角、向こうの世に在るあらゆる国や地域、あらゆる宗教宗派を網羅して、審問室が設えられているわけですね?」
「はい。漏れなく。念を押す事になりますが、一応便宜的に、であります」
 審問官が久々にボールペンをくるんと回すのでありました。
「例えば何らかの理由で、葬儀を行わないでこちらにやって来た亡者なんというのは、これはどう云う扱いになるのでしょう?」
「それは一応、その亡者様が娑婆でお亡くなりになる以前に、或る宗教に入信する明白な意思表示をなさっている場合はその宗旨に、或いはそうでない場合は、その亡者様がお生まれになった実家の宗旨に区分する、と云う様な扱い方をさせて頂いております。それすらも明確ではない場合は、葬儀宗旨未確定と云う括りの審問室がちゃんとあります」
「それはなんとも行き届いた事で」
「スムーズな審理で亡者様を寸時も困惑させない、と云うのを旨として、我々はサービスにこれ努めておりますので」
 審問官がそこでお辞儀をするのでありました。
「だからつまり、私はこの審問室でお二人と、生前使っていた日本語で、なに不自由なく会話が出来ると云うわけですね?」
「まあ、そうですね」
「それじゃあ、国籍がアメリカとかロシアとか中国とかの場合の審問室には、その国の言語に堪能な審問官さんと記録官さんがいらっしゃるわけですね?」
「はいそうです。その亡者様がこちらへいらっしゃる前に馴染んでいた、言葉にも習慣にも宗旨にも精通している専門官がおります」
 審問官はもう一度拙生にお辞儀をして見せるのでありました。
(続)
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