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もうじやのたわむれ 47 [もうじやのたわむれ 2 創作]

 拙生は口を尖らすのでありました。「そうと判っていれば、もうちいとばかり、娑婆でしたい放題をしておくべきでした。今となってはもう後の祭りですが」
「残念でした」
 審問官が真顔でそう云ってお辞儀をするのでありました。
「貴方は浄土真宗でいらっしゃるのですから、況や悪人をや、の悪人正機説の本場のご宗旨ではないですか。悪人こそ往生出来ると、既にご承知のはずだったのでは?」
 これは記録官が云うのでありました。
「それはそうですが、なにせ小心者で、そう云って油断させて置いて、いざとなったら罰を被らされるのではないかと、秘かに恐れていたわけです」
「まあ、浄土真宗であろうと浄土宗であろうと、曹洞宗であろうと臨済宗であろうと、真言宗であろうと日蓮宗であろうと、また他の宗派であろうと、基本的に仏様は慈悲を垂れるのが本業であって、何人も罰することはないのでしょう、娑婆の考えでは?」
「だから代わって、閻魔様がひどい事をするのだと思っておりました」
「それが誤解なのです」
 これは審問官の言葉であります。「繰り返しになりますが、先ず以って閻魔様と云う個性は存在しないし、それは閻魔大王官と云う地獄省閻魔庁内の役職名です、正しくは。それに仏様と云うのも、実は極楽省の官吏の総称で、如来庁阿弥陀局とか薬師局とか大日局とか、或いは菩薩庁普賢局とか弥勒局とか地蔵局とか、つまりそう云うものなのですよ」
「ふうん、それが実際なのですか」
 拙生は顎を撫でるのでありました。「その極楽省の如来庁や菩薩庁の仏様の名前のような各部署と云うものは、どう云う仕事をする役所なのですか?」
「まあ、極楽省に行かれた亡者様や極楽省で暮らす霊に、様々な行政サービスを提供する役所と云う事になります」
「それは勿論そうでしょうが、もうちいと詳しく教えて頂けるなら?」
「詳しくと云われましても、極楽省は地獄省に比べれば膨大な数の役所の部署がありまして、その一々を紹介しておりますと大変な時間がかかります。それに極楽省の事は、もし今後、貴方が極楽省に住霊登録されるか、極楽省に移住される事になった場合、ご自身で御調べになった方が宜しいかと思います。我々としては他省の事でもあり、管轄外のところを迂闊に無責任に、生半可な知識であれこれご紹介するのもなんですからね」
 審問官が無表情で、如何にもお役人然とした物腰で云うのでありました。
「ああ、そうですか。因みに、住霊登録、は娑婆の、住民登録、ですよね?」
「正解!」
 審問官はぞんざいにピースサインをして、役人然とした口調でそう肯うのでありました。
 拙生としては、審問官が応えることに消極的な態度を見せているわけだから、この質問は取り下げざるを得ないなと、ある意味納得するのでありました。
「ところで、貴方はどう云った経緯で、向こうの世を辞去されたのでしょうか?」
 審問官が話題を変えるのでありました。
(続)
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