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もうじやのたわむれ 42 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「でも、それはやり方次第ではないでしょうか。向こうの世界でも、そんな事日常的に行われていましたし、そんなに大それた事ではなかったように思われますが。それにそれは難事と云うよりは、単なる人事の問題だけでしょうに」
「一応お聞きしますが、今使われた、難事と、人事は、韻を踏まれているのでしょうかね?」
 審問官が聞くのでありました。拙生はなにやら急に苛々とするのでありました。
「そんな積りじゃありません。適宜使ったまでです、単に」
「ああそうですか。余計な気をまわしたようです。失礼いたしました」
 審問官がまた拙生に旋毛を見せるのでありました。
「四知、なんかをここで持ち出されても、香露木閻魔大王官の事を処置しない事の、説得力ある理由にはならないと思いますよ。それに、極楽省や準娑婆省に知られても、別に構わないじゃありませんか。寧ろつまらない体裁を躍起になって守ろうとするよりは、余程潔い良心的態度だと、結果として思われる事になるのではないでしょうか?」
「そうでしょうかね?」
「そうですよ。屹度、地獄省の株が上がります」
「しかし、なかなかげんなりするような事情もありましてね。一つは、そう云う人事をしたのは何処のどいつだ、なんと云う処まで責任問題が及ぶとすると、地獄省の政治家や役所の相当お偉いさんの近辺にまで追求とかが行くでしょう。そうすると間違いなくその後に、政治家やお偉いさん同士の陰鬱な暗闘があったり、そのとばっちりが我々にも及んだりしますしね。それに閻魔大王官を選定、配置する制度そのものが問題だと云う事になれば、抜本的な現行制度の見直しだとか何だかんだと、結構煩わしい仕事がまた増えたりで、結局、下端の我々が泣きを見たり、忙しい羽目に陥るだけのような気がしますが」
 審問官はあくまで、消極的な態度の中に居竦むような風情なのでありました。
「比較的簡単に、香露木閻魔大王官を罷免することは出来ないのですか?」
「そうですね、なかなか難しいかも知れません。閻魔大王官と云うのは名誉ある終身職みたいなものですからね。地獄省の社会的な価値基準の一端を、根本から問い直すと云う事にもなりますから、色々多方面からの反対も多いでしょうね、そう云うのは」
「なにやらつまらない処で、無意味な逡巡やら大袈裟な危惧やら官僚的惰気やらが、不必要な壁を造っているように感じられますね。こう云う云い草は失礼かも知れませんが」
 拙生は審問官や記録官の感情を害さないように気を遣いながら、なるべく無表情に、無抑揚な口調でそう云うのでありました。
「亡者様の中にそう云う意見があると云う事は、一応上に伝えさせて頂く事はお約束します。貴重なご意見を拝聴出来た事を感謝いたします」
 審問官と記録官がまた揃って、拙生にお辞儀をするのでありました。
「しかし、そんな単純ミスを放置されていると、我々亡者も困惑するしかありませんなあ」
 拙生は尚も少々、云いつのるのでありました。
「いやところが亡者様の方も、それであんまりお困りにはならないようなので。今まで香露木閻魔大王官の迂闊な仕事ぶりに対する苦情は、一つも報告されてはいないのですよ」
(続)
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