SSブログ

もうじやのたわむれ 39 [もうじやのたわむれ 2 創作]

 拙生は記録官の言葉を聞いた後、なにやら急に気抜けがするのでありました。「放置された決裁書類が原因で、特例が生じるのですか?」
「ま、そういうことです。恥ずかしい話しですが」
 審問官が俯いて頭を掻きながらぼそぼそと云うのでありました。
「そんな、初歩的なミスで、我々亡者は往生する事が出来ずに、不如意に娑婆へ戻されることになるわけですか? 一応私もここで、往生するにも往生する、と云っておきます」
「いやもう、面目ない次第です」
「なんか、あっけにとられて仕舞いますね」
 拙生は呆れ顔をして見せるのでありました。「それに、またちょっと脇道に逸れるかも知れませんが、こちらの霊は数百年と云う寿命があるのですか?」
「ええそうですね。こちらの霊は大体、今年度の省勢調査では女性で八百六十歳、男性で七百九十歳と云うのが零歳児の平均余命となります」
 記録官がしごく無表情にそう云うのでありました。
「そりゃまた、えらくご長寿で」
 拙生は驚くのでありました。
「閻魔大王官の話しに戻ると、大方の職員が二十二歳で閻魔庁に就職して、数百年コツコツといろんな部署で働いて、上級職試験を受けて、まあ、我々のような審問官や記録官になって、そこでまた大いに年季を積んで試験を受けて、五百歳くらいで閻魔大王補佐官となって、そこでまた百年程働いて、いや最近では定年延長が義務づけられているので百五十年程働いて、それで目出度く定年を迎えると云うのが、云ってみればここで働く我々職員の、普通の入庁から定年までの見取り図なのです。数名の、閻魔大王補佐官筆頭と云う役職で退官するのが、まあ、云ってみれば我々の花道でしょうか。勿論、皆がそう云うコースを歩むのではなくて、途中の何処かで定年を迎える職員が大多数ですが」
 これは審問官が喋ったのでありました。
「寿命が娑婆と桁一つ違うのですね。二十二歳と云う就業年齢は娑婆っぽいですが、その後は、一桁下げると、定年を迎える年齢なんかも娑婆っぽくなりますなあ」
「で、定年を迎えた後、閻魔大王補佐官筆頭の中から毎年一名の研修生が選抜されて、希望すれば閻魔大王官研修学校に定年後に特に優秀な霊で百年、普通は百五十年ほど通って、その後晴れて閻魔大王官になれるのです。勿論研修学生となったら、定年時の六十パーセントの俸給が貰えますし、閻魔大王官ともなれば、閻魔大王補佐筆頭よりもかなり高額なサラリーが支給されますから、研修生に選抜されただけでも、豊かで安定した老後を考えると、これは大いに魅力です。それに閻魔大王官と云うのはかなりの権威がありますし、叙勲もあって、後世に名前が残りますから、そう云う意味でも憧れの終身職なのです」
「つまりそうやって閻魔大王が誕生するのですね。ふうん」
 拙生はやや顎を上げて口を尖らすのでありました。
「ですから、閻魔大王官になるのは七百歳以上の老霊なのです。しかもその間に大いに努力しなければならないので、閻魔大王官になる頃には大体がくたびれて仕舞うのです」
(続)
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。